ティアの食べ過ぎ ~前編~
空は晴れて青空がどこまでも広がっている。どうやら今日はいい天気になりそうだ。
荷台の上でよっこらしょと仰向けになり、私はぼんやりと…いや、ちょっと死んだ目で空を眺めていた。己の限界を超えイチゴを食べ過ぎてしまったため、胃もたれが酷く気分はあまり良くない…。
「キャウ、キャウキャウ!」
「モ? モオ~」
「お、シロはベコと話ができるのか? お前、なかなか面白い犬だな~。牛と話ができる真っ白な犬なんて、ひょっとして主神フィヌイ様だったりしてな!」
アハハハッと呑気に笑いながら、ペレさんは御者台の上でフィヌイ様の行動を面白がっていた。どうやらフィヌイ様は御者台の上で、荷車を引いてくれている牛さんとなにやら話をしているようだ。
これでも本当に、この国の主神フィヌイ様なんだけどなあ~と私は荷車の上でまた、ごろんと転がり体勢をかえ突っ伏すとその話をなんとなく聞いていた。なんか程よく敷いている藁の匂いが心地いい。
行きは野菜が積まれていたようだが、有難いことに収穫祭で全部売り切れ帰りは空になった荷台のスペースに乗せてもらったわけである。
村までもう少し、私はまた仰向けになると、虚ろな目で青空を眺めていた。
そこに真っ白な子狼の姿をしたフィヌイ様が私の顔を覗き込んでくる。もふもふの耳がぴんと立ち、誇らしげな顔をすると、
――牛さんがティアのために、乗り心地が良いように歩いてくれるって! よかったね~
「そ、そうですね…ありがとうございます…」
私は何とも言えない返事をするしかなかった。
それよりも私の頭の中では、診療所に帰れば夫であるラースにガミガミと怒られ、息子のアルからも小言を言われるそんな予感がしたのだ。
フィヌイ様はいつものことだし大したことないってばと言ってくれてはいるが、やはり母親としての威厳と言うものを考えると…非常に微妙な気分ではある。
そうこうしている内に荷車は村の中へと入り、牧歌的な馴染みのある風景が見えてきた。
私の家のある診療所までもう少し。ああ、どうしよう。私はちょっと黄昏た気分になっていたその時――
「ペレさん! ちょうど良かった。うちの妻を見かけませんでしたか!」
非常に聞き覚えのある声と共に、走って近づいてくる足音が聞こえたのだ。かなり焦っているようなとても馴染みのある声。そして同時に嫌な予感もする。私はコソコソの荷台の隅に這って隠れたのだ。
「ああ、ティア先生のところの旦那さん! ちょうどいいところへ。ティア先生を診療所まで送り届ける途中なんですが、そのまま診療所まで送りますよ。ついでに、お宅のシロも一緒ですよ」
「キャウ!」
フィヌイ様は御者台まで移動すると顔を出し、そうだぞっと返事をしたのだ。
「…お前もかよ」
私の夫、つまりラースは小声でぼそっとつぶやいたのだ。