謎の落とし物
フィヌイはご機嫌な様子で、いつものように辺境の村へと続く道をてくてくと歩いていた。
しかし暫く歩いていると、いつもなら道の真ん中には絶対ないような謎の大きな物体が転がっているのを発見したのだ。
それは荷車が一台やっと通れる狭い道幅を、思いっきり塞ぐようにしてその物体は転がっている。
フィヌイは興味本位からゆっくり近づいてみると、それは落とし物ではなく…見覚えのある人物。なんと、以前共に旅をしていたかつての聖女ティアが道の真ん中で、うつ伏せになって倒れていたのだ。
だが奇妙なことに、背中にはなぜか大きな風呂敷を背負っている。
「キャウ?」
フィヌイは子狼の姿で小首を傾げると、道の真ん中でうつ伏せになっているティアをなんともいえない不思議な気分でしばらく見つめていたのだ。
そして意を決するとてくてくと近づき、ちょいちょいと前足でティアに触れると声をかけてみる。
――ティアったら、こんな道の真ん中で寝てると風邪ひくよ。
ティアは地面に突っ伏していた顔を、なんとかもち上げると、
「ふぃ…フィヌイ様…ちょうどよかった…。実は限界を超えて食べ過ぎてしまって、もう一歩も歩けないんです…」
――…!? だから、道の真ん中で寝てたの?
「ち、違います。寝てたんじゃなくて、倒れていたんです! どうか、フィヌイ様の癒しの力を…」
そう言い残し、ティアはまた地面に突っ伏したのだ。
フィヌイは小首を傾げると、目を棒線にして真剣に考える。
――う~ん。それってただの食べ過ぎなんだよね。僕の治癒の力で治せるけど、食べ過ぎに使うのはちょっと……神様の威厳というのもあるし困ったな。
「お願いします。もう、一歩も歩けないんです。私が近くの町で開催されたイチゴの収穫祭のメインイベント、大食い大会に出場したことがバレたら、ラースやアルになんて言われるか……。私にも母親としての威厳があるんですよ~」
――アル達に黙って、その大食い大会に出場したの!?
「だって…。話したら、あの二人に絶対に反対されるから…」
――ああ、なるほど。
反対される原因をフィヌイはなんとなく察したのだ。
ちなみにアルと言うのは、今年16歳になるティアの息子の愛称。本名はアルス。もちろん父親は、あのラースである。
――その大会に出て…思いっきり食べ過ぎちゃったんだね。まあ、ティアらしいと言えばティアらしいけど、相変わらずそういうところは変わってないよね。
「でも強豪を打倒し優勝したんですよ! イチゴ一年分を商品として貰ったんです」
――ああ、なるほど。その背負っている大きな風呂敷包み、その中に入っているのが全部イチゴなんだね! たしかにベリーの甘い匂いがするね。
「どうかご慈悲を。家には収穫祭に行ってくるけど心配しないでねって置手紙を残して、今日の午前までには家に帰る予定だったんですが、この有様で…」
――このままここで待っていてもいいんじゃない。二人のうちどちらかが、ティアを回収しにきてくれるってば!
「でも…絶対怒られますよね。クスン…」
――う~ん。そうかもしれないけど、いつものことだし大丈夫だよ!
フィヌイはそう言いながら、子狼の姿で尻尾をふりふりお気楽なことを言っていた。
その後も人気のない、辺境の村へと続く道の真ん中でどうでもいい会話が続いていたのだ。