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かつての聖女が住む村へ

 暖かい光が大地を照らし、山の木々が、新緑の夏の装いを始める頃。

 力強く葉を伸ばし始めたばかりの枝木に、今年もニセアカシアの小さく白い花が山々に咲き誇るそんな初夏の始まりを告げる季節。


 リューゲル王国の直轄地にして、辺境の山の中にある小さな村へと続く山道を一匹の小動物が歩いていた。


 テクテクテクテク――


 ふさふさな白い尻尾を揺らし、雪のように白く山々を染めるニセアカシアの花の甘い匂いを嗅ぎながら足取りも軽くご機嫌な様子で、真っ白な小動物は村へと続く道を歩いていた。

 なにも知らない人間が見れば、真っ白でもふもふな子犬が道を歩いているようにしか見えない。

 だが、この小動物こそこのリューゲル王国の主神フィヌイであった。


 ほぼ毎日の日課で、フィヌイは王都の神殿から辺境の村へと遊びに来ているのだ。

 こんな辺境の村へと続く山道を、凄く可愛い子犬がたった一匹で歩いているのはちょっと不自然な光景かなって思うけど…まあ大丈夫だよね。

 

 この村の人たちは、僕のことをもとは迷い犬。今は村の診療所の飼い犬だって思っているし、絶対に怪しまれてはいないはず。目立ってはいないし、本当は子狼の姿だけど僕の子犬のフリは完璧だもの!

 こんな幼気で可愛い子犬がまさかリューゲル王国の主神フィヌイだって誰も気づかないはずだよね。


 この国の主神フィヌイは、そんなことを考えながら子狼の姿で村へと続く道を歩いていたのだ。

 フィヌイとしてはこの姿が、しっくりと馴染みがありとても気に入っていた。


 今から18年以上前――

 フィヌイは、その当時の神の代弁者である聖女ティアと共に邪神の脅威からこの国を救っていた。その当時、白い子狼の姿で聖女と共にいろんなところへ旅をしていた名残なのか、今もこの姿のままだ。

 だが本人(?)は、白い子狼の姿だと言い張ってはいるが、怪しまれるので可愛い子犬のフリをしていた。


 ちなみにその時の聖女だが、国を救った尊き人物となってはいるが…いろいろ事情があり表向きは天へ召されたことになっている。

 実際のところは当時、共に旅をしていた護衛の青年と夫婦となり、今では男の子も生まれ、この先にある辺境の山間にある小さな村で診療所を開き幸せに暮らしている。

 そこでフィヌイは、今もその当時の聖女と家族が幸せに暮らしているのか見守るために定期的にお宅を訪問しているのだ。


 ――フフフフフ♪ ティアの今日のおやつは何かな? ニセアカシアの花が今年もたくさん咲いているし、そろそろアカシアの蜂蜜が採れる季節だよね。蜂蜜とバターがたっぷりと染みこんだ美味しいおやつがそろそろ食べたいな~


 フィヌイはおやつ前の運動とばかりに、スキップをするように足取り軽く、行きだけは山をひとつ越え辺境の村へと向かい歩いていたのだ。

 

 そう、決して…おやつを食べにほぼ毎日遊びに来ているわけではないのだ。たぶん…。

ちょうどこの話を書いているころ、ニセアカシアの花の季節になっていました…!

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