フィヌイのお宅訪問(10)
やれやれ…とりあえずはひと段落ついたみたい――私は、ほっと息を吐いたのだ。
フィヌイ様の術も無事解除できたし、地割れは跡形もなく消えている。
そこは周りと同じように、下草が生えた森の地面が広がっていた。今はどこに地割れがあったのかわからないくらいだ。
そして今まで地割れがあった地面の上には、ラースがぺたんと腰を下ろし大きく肩で息をしていた。午前中からずっと崖を登り続けていたようだし、さすがのあいつもかなり疲れたみたい。
その傍らでは霊獣のノアがラースの腕の中にとび込み、涙目になりながらすりすりと温もりを確認していた。なんか…飼い主の無事に喜んでいるワンちゃんみたいで、ほのぼのとした光景だ。
やっぱりラースの無事を確認出来てホッとしたみたいだね。
私としては、なんとなくラースは無事だと信じていたし、フィヌイ様のことだから…加減は考えてそんな無茶苦茶(?)なことはしないだろうとは思ってはいた。
ただ、フィヌイ様の術を無事解除できたことに、私はほっと胸を撫で下ろしたのだ。
しかし、ラースが何故こういう行動にでたのか大体の予想はついてはいるが…念のためあいつとはゆっくり話をしなければならないだろう。
とりあえず、あいつの呼吸が落ち着いてから、私達は家への道を心持ち急いで戻ることにする。
親切なお隣さん――つまり、フィヌイ様に仕える大地の精霊のお爺さんことだが。
本当の名はフィヌイ様しか知らない。最初に何と呼べばいいのか聞くと、親切なお隣さんと呼んでほしいということだったので、私達はとりあえずそう呼んでいる。
その親切なお隣さんに、診療所の留守番を頼んではいるが、それでも患者さんが来ていたらすぐに対応できるようにと、私は心持ち急いで診療所へ戻ってきたのだ。
だが診療所はいつもと同じで、特に急患もなく穏やかな時間が流れていた。
私は留守を守ってくれたことにお礼を言うと、親切なお隣さんはにこにこ笑いながら大地へと帰っていったのだ。
そして楽しそうな声が外から聞こえ、私はふと窓の外に視線を向けたのだ。
窓の外は見れば、アルスと子狼姿のフィヌイ様が楽しそうに追いかけっこをして遊んでいた。
楽しそうに遊ぶアルスを眩しそうに見つめながら、私は傍らにいる、夫であるラースにゆっくりと話しかけたのだ。