フィヌイのお宅訪問(8)
「ラース―!! やっぱり、そこにいるのね!!」
「ああ! 悔しいが…フィヌイの野郎にしてやられた――!!」
私は真っ暗な穴の中に向かい大声で呼びかける。すると程なくラースの声が、深い穴の中から木霊のように返ってきたのだ。
「おい、ティア! ノアもそこにいるんだな――!」
「ええ! ラースの気配が消えた所まで私を連れてきてくれたの!」
「そうか…」
最後の言葉は聞き取れなかったが、あいつは少し安心したようだ。
こちらからは、あいつの姿はまったく見えない。だがラースからは私たちの姿が見えているのかな?
そして――やっぱりと言うべきか犯人はフィヌイ様のようだ。
まったく……フィヌイ様にも困ったものだ。
フィヌイ様としては、いつもアルスと遊ぼうとするとラースがすぐ邪魔をするから、夕方までラースの足止めをしようと企み…じゃなかった! そう考えたのだろう。ちょっとした悪戯のつもりのようだが…
神様の感覚でお茶目な悪戯のつもりでも、ただの人間からみると……命の危険がかかったとんでもない試練だろう。
私は過去にフィヌイ様から直接指導を受けていた。聖女が行うとは思えない厳しい特訓の数々を思い出し、なんとなく…遠い目になってしまったのだ。
しかし、あのラースがまだ地上に這い上がってこれない所を見ると、地属性以外の魔法は完全に封じられているみたい。そうでなければ、あいつは風属性の魔法を得意としているから風の力を利用し、すぐにでも地上にあがってこれるはずだ。
どうやら地道に体力と気力のみでフィヌイ様が創った地割れを、一歩ずつせっせと崖登りをするように登っていると容易に想像できたのだ。
さて、どうしたものかと…私は深い穴のような地割れを見ながら悩んでいたのだ。