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フィヌイのお宅訪問(7)

 私は目を皿のようにして、気がつけば不自然な地割れをじーと見つめていた。

 はっきり言って怪しい…。


 地割れと言ってもそれほど大きなものではない。例えば人一人が、ぼんやりと歩いていてふと気がつけば落ちてしまうような、そんな大きさの穴だ。

 フィヌイ様から昔、こんな話を聞いたことがある。北の大陸には一面氷に覆われた大地があるという。そこには、クレバスと呼ばれる落とし穴のような氷の割れ目が、ときより姿を現すらしい…まあ、ここには氷の大地はないが、そんな落とし穴のようなものが、辺境の村はずれに突如として現れたといったところだろうか…?


 しかし、村はずれにあるこの森は、私がよく薬草の採取で入るところだ。

 前にこの辺りに来たときは、こんな怪しい地割れなど無かったはず。自然現象で、できた地割れにしては不自然すぎる。


 おかしなことにノアだって、私が気づくまでこの地割れの存在を見落としていたみたい。

 今、この地割れの存在に初めて気がついたと言っているみたいに…とても驚いた顔で私の後ろから恐る恐る地割れを覗き込んでいた。

 それにこの付近に満ちている魔力――いや神力の気配…間違いなくフィヌイ様のものだ。


 どうやらフィヌイ様の加護があり同じ属性の魔法が操れる者以外は、この地割れに気づかないよう細工がされているようだ。おそらくは、周りと同じ地面に見えるように地割れの存在を隠している。


 だから風属性の霊獣であるノアは、ラースの気配が消えたこの付近をいくら探しても、地割れを発見することができなかったのである。もちろん、村の人がこの辺りを通ったとしてもわからなかっただろう。


 私は不自然な地割れを慎重に覗きこみ、穴の中を確認する。ノアも私の背中からひょっこりと顔を出しちょっと震えながら穴を見ていた。

 穴の中は真っ暗で何も見えない。まるで地の底まで続いているのではないかというくらいの深さだ。


 私は気持ちを整えると息を吸い込み、思い切って穴の中に向かい――


『ヤッホ――!!』


 大きな声で叫んでみる。

 耳をすませば、ヤッホー! と私の木霊がすぐに返ってきたので、私はうんうんと満足そうに頷く。これで穴がかなり深いと確信できたのだ。

 傍らでノアが口をあんぐり開けて、ビックリしたように私の顔を見ていたが…気のせいだろう。

 別に私は遊んでいるわけではない! ただ、大声をだして穴がどれくらい深さか確認していただけだ。

 だが、程なく…


「馬鹿野郎――!! ティア! お前、なに呑気に遊んでいやがる―!!」


 おや? なんか聞き覚えのある奴の声が、穴の中から聞こえてきたような気がしたのだ。


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