木箱の中には
ずっと前から、ここのマフィンと焼き菓子が食べたいと思っていたんだ。
長年の願いが叶いティアは心から感動していると、今度はセシルさんが話しかけてきたのだ。
「ティアさん・・少しよろしいでしょうか?」
「はい。なんでしょう」
セシルさんに促され、フィヌイ様を残したままその場を離れることにする。
今度はウィル君に、尻尾を掴まれるという悲劇は起きないはずだし、本人だってもうそんなことはしないだろう。
それに近くには侍女や使用人の皆さんもいてくれるし大丈夫。
セシルさんの後についていくと、そこは彼女らが乗っていた貴賓用の馬車の前だった。
周りには、いつの間にやら警護の騎士たちに囲まれているしなんだか物々しい雰囲気。はて?どういうことだろう。ティアが疑問に思っていると、
やがて二人の騎士が馬車の中から重そうな木箱を外まで運び、ティアの目の前にくると慎重にその箱を置いたのだ。
「これは・・なんでしょうか?」
「息子の治療費です。どうぞ、心ばかりですがお納めください」
セシルさんが軽く手を上げると、騎士の一人が頷き木箱のふたを開ける。
光りが強く・・ティアは思わず目をつぶってしまったのだ。
金色の光りが眩しすぎるよ~
ようやく眩しさにも慣れ、薄く目を開けると箱の中身を見て驚き、
「え!? これって金貨ですよね・・・!」
「やはり、これでは足りないでしょうか?」
「いえいえ、そういうことではなく・・一体、どれくらいあるんですか!?」
「神殿への寄付で使ってしまったので、ここには金貨八百万枚ぐらいしかありませんが」
「さすがに、こんなに頂くわけには・・」
金貨一枚でもティアにとってはかなりの大金だ。なのに、この金額はあまりにも桁が違いすぎるし、庶民には目の毒だ。それに見なれていないので、頭がくらくらする。
「ですが・・聖女様の治療を受けるには、最低でも金貨一千万枚が必要だと言われました」
「誰が、そんなこと言ったんですか・・!」
「王都の神殿におられる、神官長様です」
――あの、頭がツルツルの狸爺。ぼったくり神官長だよ!
その問いに答えたのはセシルさんと、いつの間に足元に来ていたのか、ちょこんと子狼姿でお座りをしているフィヌイ様だった。




