フィヌイのお宅訪問(5)
おかしい…。
ラースってば、朝食の後すぐに家を飛び出していったきり…帰ってこないのだ。とにかく、すぐに帰ってくるから心配するな! と言い残し、昼が過ぎてもまだ帰ってこない。
ふと窓の外を見れば、白い子狼の姿をしたフィヌイ様とアルスが楽しそうに遊んでいる。
まさかとは思うが…その原因はフィヌイ様ではないかと私はちょっと疑ってしまう。
だって、だって…まず第一にフィヌイ様の気配がした途端、ラースが家を飛び出していったこと。次にラースが出ていって少ししたらフィヌイ様がいつものように家にやってきたのだ。しかも、とてもご機嫌な様子で鼻歌まで歌っていたし、なんか怪しかった…。
そして決定的におかしかったのは…昼食のときフィヌイ様ったら、ここに来るときラースに会ったけど、用事があるから昼食はいらないよ~て言ってたよ。なんて言うんだもの。
あいつは貴重な薬草を手に入れるため、村を離れるとき以外は、必ずと言っていいほど家族との食事の時間を大切にしているのだ。これはどう考えてもフィヌイ様への疑念は深まるばかりだ。
ラースを探しに行った方がいいのではないかと思う反面…診療所を少しの時間とはいえ空けても大丈夫かという心配もある。
患者さんで混みあうのは午前のみで、午後の時間帯はまず患者さんは来ないとはいえ診療所を空けるわけにもいかない。アルスに関してはフィヌイ様が面倒を見てくれているので大丈夫だが、さてどうしたものかと私が悩んでいると、
――突然、空の向こうから聞き覚えのあるパタパタという鳥の羽ばたきが聞こえてきたのだ。
空の向こうを見てみると、
あれは…間違いない。ラースの相棒である霊獣のノアが慌てふためいた様子でこちらに向かい飛んでくるではないか。気がついた時には、開け放たれた窓から凄い勢いで診療所の中へと入ってきたのだ。
その瞬間、風圧で整理していた薬草は見事に飛び散り散らかってしまったが…それ以上に気になったのはノアの様子だ。
ノアは慌てたように私の周りをパタパタと飛んでいる。
言葉は相変わらずわからないが、なんとなくラースが行方不明になり私に助けを求めていることだけは理解できた。
私は薬草を整理を止め、親切なお隣さんに診療所の留守と、散らかってしまった薬草の整理を任せ、ノアと共に行方不明のラースの捜索に向かうことに決めたのだ。