フィヌイのお宅訪問(4)
フィヌイがラースを穴に落としてから、だいぶ時間が過ぎたころ――
ティアは村にある自分の診療所でのんびりと薬草の整理をしていた。
患者さん達で午前は込み合っていたが、お昼を過ぎればいつもと同じように診療所は落ち着きを取り戻していた。
いつもと同じ平和な時間が過ぎていく。ティアはこの穏やかな時間を薬草の整理をしながらまったりと楽しんでいた。
外を見れば今年六歳になる息子のアルスと、子狼の姿をしたフィヌイ様が仲良く追いかけっこをして遊んでいる。
その光景を温かく見守りながら、ティアはこれまでのことに思いを馳せていた。
リューゲル王国の王家の直轄地だが、辺境にある山間の小さな村。そこでティアは小さな診療所を開いていた。今は一人前の薬師となりティアはこの診療所で、患者さんの治療にあたっている。
そう、ラースと夫婦となり辺境の村に移り住み男の子も生まれ、今は親子三人穏やかに暮しているのだ。
あ、でも…アルスが生まれてからは長い眠りから目覚めたフィヌイ様がほぼ、毎日のように遊びに来るようになっていた。それに忘れちゃいけない、ラースの相棒である霊獣のノアもいるから毎日がとても賑やかじゃないか。
まあ、フィヌイ様とラースの仲は相変わらずだし…いや、仲が悪いわけじゃないんだけどね。とにかくすごい賑やかなのだ。ノアもちょっと困っておろおろしている感じもあるしね。
でもアルスが近くにくるとぴったっと空気が穏やかになるから、これまた不思議だ。母親として、やっぱり我が子ながらアルスの力は偉大だなって思ってしまう。
ラースも子煩悩の親バカだし、でも私もあいつのこと言えないな。それにフィヌイ様もアルスのことが大好きで、きっと孫ができた気分なんだろうね。
だから、アルスの前ではラースもフィヌイ様も喧嘩もせずお利口さんになるのだ。
「……。」
けどアルスとフィヌイ様が遊んでいる光景を見ながら、私は妙な違和感を覚えていた。
ラースが昼食の時間になっても帰ってこなかったのだ。それがなんだか気になっていたのだ。