フィヌイのお宅訪問(1)
ネタバレ注意。この話は、エピローグから数年後の話となります。
――てくてくてく
小さい肉球で落ち葉を踏みしめながら、僕はご機嫌に山道を登っていく。
白い尻尾をふさふさ揺らし、足取りはとても軽い。
この小高い山を登れば、もうすぐ麓には小さな村が見えてくる。
リューゲル王国の王家の直轄地。辺境にある山奥の小さな村。
その村は、少し前に僕と共に旅をしていた聖女ティアが暮らしている。
そして同じく、一緒に旅をしていた…あいつもその村にいるのだ。ティアは…よりにもよってあいつを生涯の伴侶に選んでいた。今では子供が生まれ家族三人、幸せに暮らしているみたい。
僕が深い眠りについている間に、よりにもよってあいつと結婚していたなんて…なんだかちょっと微妙だしシクシクって悲しい気分だけど、でも…でもティアが幸せならそれでいいんだ。
けどこの国の主神であり偉~い神様である僕、フィヌイとしてはやっぱり定期的にお宅訪問をするべきだと思う! そう考えた僕は、王都の神殿からちょくちょくティア達の住む村に通っていた。
もちろん王都の神殿から瞬時に、ティア達が住む家に行くこともできるけど、それじゃつまんないよね。
やっぱり遠く離れた王都の神殿から、ティア達の住む辺境の村へと通っている雰囲気がないと、なんか達成感がないし。だから僕は、いつも村の一つ手前の山から子狼の姿で歩くようにしているんだ。そうしたら雰囲気もばっちりだしね。
それに今日は『アル』とたくさん遊ぶ約束もしているし、それにティアがおやつの時間には、僕の大好物のパンケーキを焼いてくれるんだ。凄く楽しみだな。だからこうやって、山を登ってお腹も空かせておかないとね。
ああ、それと『アル』って言うのはティアの息子だよ。本名はアルスなんだけど今年で六歳になるんだ。父親譲りの黒髪だけど…性格は素直で優しい良い子なんだ。
さあ、山を降りてこの林を抜ければもう少しで、アルに会えるぞ!
僕は軽快に歩いていたが、不意に歩みを止める。
思わず僕は何とも言えない変な顔で前を見つめていた。
そこには――僕とティアだけでなくアルとの仲すらも引き裂こうとするお邪魔虫が立ち塞がっていたのだ!
「キャウギャウ!」
僕は思わず文句を言う。
そこに立っていたのはティアの夫であり、アルの父親でもある黒髪で長身の男――ラースだったのである。