羽毛もふもふ日記(16)
僕は意を決すると、自分の気持ちをフィヌイ様に伝える。
――フィヌイ様の申し出は凄く嬉しいです。でも…今はまだ帰れません。ご主人のことが心配で、ご主人がちゃんと幸せな人生を送ったのかそれを見届けるまではまだ、だから北の大陸の神域――大森林にはまだ帰れません。
――なるほど、ラースのことが心配なんだね。
フィヌイ様はすでに答えを予想していたのか、特に驚いてはいなかった。
――ご主人も僕と同じで、故郷から王都に連れてこられたって言っていたから。けどご主人には帰る故郷がないって…。僕より酷い目にだってあっていたのに、それでも前を向いて生きている。素直じゃないし口が悪いところもあるけれど、でも僕をいつも気遣ってくれるし弱いものにはとても優しいから。だから幸せになってほしい。
――それが、ノアの答えなんだね。
――はい、せっかくの申し出なのにすみません。あの…それとフィヌイ様…。え~と、その…。
――どうしたの?
僕がもじもじしていると、フィヌイ様は不思議そうに首を傾げていた。
――あの~…ご主人のことなんですが、フィヌイ様はご主人のことが嫌いなんですか?
――うう~ん、とくに嫌いじゃないよ。それに悪い奴とか嫌な奴には僕の加護を授けたりはしないよ。
――なんかその…扱いが…。
――ああ、そのことか。僕とラースとはちょっと色々あってね。後は…お互いティアのことを大切に思っているんだけど意見が合わなくって。
たいしたことじゃないよっとフィヌイ様は目を棒線にしながら、微妙な顔でふむふむ頷いていた。
――あ! それと、ノアを北大陸の神域――大森林まで送って行ってあげるって言ったのは、別にあいつと引き離したい訳じゃないんだ。…ただ、今だったら確実に送り届けることができるから、これは僕の都合なんだ。――これから先、僕は力を使い果たして深い眠りについてしまう可能性だってある。それにノアの気持ちだってあるし、一度ゆっくりと話をしてみたいって思った、ただそれだけなんだ。
ああ、そうか…フィヌイ様なりの心遣いだったんだ。やっぱりフィヌイ様は優しい神様だ。けど同時に不安にも思う。前に言っていた邪神の封印という言葉も気になっていたし、これから先の戦いがさらに厳しくなるというのだろうか…?
――あの…フィヌイ様はいなくなったりしませんよね? そしたらティアお姉ちゃん悲しむよ。僕だって悲しいし、ご主人だってきっと…
――大丈夫。約束する! みんなに悲しい思いはさせないよ。
その言葉を聞き、僕はホッとする。
――それとノアにも言っておくけど、そんなに堅苦しく喋んなくていいんだよ。今の僕は、可愛い子犬のフィーなんだからね。
そう言うと、もふもふの子狼の耳が揺れフィヌイ様は可愛く小首を傾げたのだ。
え…? その瞬間、僕の中で威厳ある偉~い神様のフィヌイ様のイメージが薄れていく…。
フィヌイ様って…かなりお茶目なのかもしれないと僕は、はっきりと確信したのだ。