羽毛もふもふ日記(15)
フィヌイ様は子狼の姿で僕の顔をじーと見つめていた。
真っ白なもふもふの毛並みに、優しい青い瞳が僕の姿を映している。
その姿は、北の果ての大陸にある大森林で長老から聞いた、怖~いフィヌイ様の話とはずいぶん違うように思えた。
――僕は地上に残ることを選んだ神だ。だから同じように地上に残った神獣や幻獣、霊獣たちのことも気にしているんだよ。それは大戦の後、北の神域の大森林で生まれた者達も含めてね。どうやらノアは、大戦の後の生まれのようだけど、いくつになるのかな?
――え~と、二百歳ぐらいだと思います。
――そうすると、幼獣からそろそろ成獣に近づく頃だね。
――はい…。
フィヌイ様の瞳は、慈しむようにとても優しげだ。いつもの無邪気な子狼の姿とは違う。とても眩しい神様の威光を感じたんだ。
――それにノアには悪いことをしたね。この国の愚か者どもが、君を北の神域から連れ出したんだろ。遅くはなったけど天罰は下しておくよ。
――あ、でも…僕は今とても幸せだから別にそれは望みません。
声が低くなりちょっと怖くなったフィヌイ様に僕は羽をパタパタさせ訂正する。別に、悪い奴らを庇っているわけじゃないよ。確かに悪い人間はいたけど…僕を助けてくれる良い人間たちもいたんだよ。ご主人の師匠であるお爺さんや、王太子殿下とか…。
それに今この瞬間なら、ご主人やティアお姉ちゃん、もちろんフィヌイ様も含めてね。僕は一生懸命そのことを話した。
フィヌイ様は、要領のつかめない僕の話を真剣にフムフムと聞いてくれた。
そして、少し考えた後――。
――う~ん。それじゃ、悪い奴らはほどほどの天罰…じゃなかった。お仕置きにしようかな。
なんか、天罰って言葉がすごく気になったんだけど……き、気のせいだよね。
――それとノアはこれからどうしたい? もし君が望むなら僕の神の力で、北の大陸の神域の中にある大森林まで送ってあげることもできるよ。
――え?
思ってもみなかったフィヌイ様の申し出に僕は驚いていた。けど、今考えれば僕の心はすでに決まっていたんだ。