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【書籍化&コミカライズ化】もふもふの神様と旅に出ます。神殿には二度と戻りません!  作者: 四季 葉
第二章 聖女ではありません

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幸運は後からやってくる

見ればウィル君は、フィヌイ様の尻尾をむんぎゅと掴み引っ張っていた。

これは・・間違いなく痛い・・

神様に向かって恐れを知らぬ行動だが、


ただ、ウィル君としては全く悪気はないようで・・ただ、無邪気に子犬と遊びたかっただけのようである。


でも・・気持ちはわかるぞ!

ティアは拳を握りしめると頭の中ではこんなことを考えていた。

そう、ふさふさ揺れるススキのようなもふもふの尻尾。それを掴んでみたいという衝動に駆られる気持ちが・・!

痛いほどわかる。

ちょうど猫が、ねこじゃらしに飛びつくイメージが浮かんでしまう。そんなところか・・


――ティア!どうでもいいから、早く助けて~!!


フィヌイの声にティアはようやく我に返り、助けに向かおうとしたその時、


「手を放してあげなさい。とても、痛がっているでしょ」

「でも僕、ワンちゃんと遊びたいんだ」

「あなただって、頬をつねられたりしたら痛いんじゃないの。それと、同じことをしているのよ」

「・・ごめんなさい」


母親のセシルさんに諭され、ようやくウィル君はフィヌイ様の尻尾を放したのだ。


いけない・・出遅れてしまった。

でもこういう時は、お母さんの方がいいだろうとティアは自分を納得させ、



――ティア~、怖かったよ~


やっとウィル君から解放され、涙目で一直線にティアの腕の中めがけ飛び込んでくる。

その様子は、子狼というよりやっぱり可愛い子犬のようだ。

さらに言えば神様には全く見えない。これでは誰も気づかないだろう。


よしよしと宥めながら、助けるのが遅れてしまったことにちょっと反省するティアだった。



しばらくすると、セシルさんの後ろに隠れ、もじもじした様子でウィル君はやってくる。


「ほら、子犬さんに謝るんでしょ」


お母さんのセシルに促され前へと出され、

フィヌイ様はウィル君を見たとたん、顔を私の腕の中にすっぽりと潜り隠れる。背中と耳しか見せていない状態。


これは断固、拒否の姿勢だ――


「子犬さん、さっきはごめんなさい。お詫びに、僕のお菓子を持ってきたんだ」


とたんに耳をぴんっと立てると、後ろをくるっと振り向き目をキラキラさせている。

フィヌイ様の立ち直りの早さにティアは心の中で、ん?と思いながらも、


気付いたときには差し出されたクッキーの匂いを嗅ぎ、すぐに問題なしと判断すると食べ始めたのだ。


ホッとしたように、ウィル君とセシルさんはフィヌイ様を優しく見つめつつ撫でている。



いいな・・こんな、いろいろな種類の美味しそうなクッキー初めて見た。

フィヌイ様じゃなくて、私が食べたいとティアはしょうもないことを考えていたが、


「ティアお姉ちゃん!この子の名前なんて言うの」

「主神・・フィヌ・・じゃなくてフィーだよ!」


・・危うく主神のフィヌイ様とか言いそうになった。内心、冷や汗ものだ・・


「フィーて言うんだね」

「キャウ!」


良かった、ちゃんと子犬のフリをして適当に合わせてくれているみたいだ。

ティアはそっとフィヌイを地面に下すと、残りのクッキーも傍に置いておく。どうやら美味しそうに食べているようだ。


「それとお姉ちゃんには、これをあげる」


ウィル君は侍女さんから紙袋を受け取ると、はいっと渡してくれたのだ。

ティアは紙袋の中を見ると、そこに入っていた物を見て目を輝かせる。


「これって、リオンの朝市で売っている、焼き菓子とマフィン・・!?」

「お姉ちゃん、よく知ってるね。ここのお店の焼き菓子美味しいよね。でもね、本店はうちの領地にあるんだよ!」


得意げに話すウィル君。

だが、ティアは朝市で焼き菓子が売っている光景を何度か見たことはあったが、買ったことは一度もなかったのだ。もちろん、食べたことさえない・・

彼女が神殿の下働きとして貰っていた給料では、とても買えなかったのである。


――ありがとうフィヌイ様!

見た目は、子犬にしか見えないけど・・


美味しそうに高級クッキーを食べている神様に向かい心からそう思ったのだ。

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