羽毛もふもふ日記(12)
僕は一瞬――もふもふの白い子犬と目が合ったような気がした。
でも気がついたときには白い子犬は、あの女の子に耳の後ろの付け根部分を撫でてもらい、気持ちよさそうに目を細めている。
おかしいな。人間はもちろん、勘の鋭い動物だって僕の姿は見えないはずなのに……。
もしかして……本当に主神フィヌイ様?
僕は、もう少しだけ女の子と子犬の様子をみることにした。僕は聴覚がとてもいいし、離れた距離でも人の話し声なら聞こえるのだ。
するとこんな話が聞こえてきた。
「キャウ、キャウ」
「え? 珍しい鳥がいたの。どこどこ、私にはどこにいるのかわからないけど…」
そう言いながら焦げ茶色の髪の女の子は、きょろきょろと辺りを見回している。
ん? もしかして、僕のことじゃないよね。内心ちょっと冷や汗ものだ。さすがに見つかるわけにはいかない。とりあえず今はじっと茂みの影に身を潜め、気配を隠すことに集中する。
「キャウ、キャウ!」
「なになに、今日の夕飯は鳥の丸焼きが食べたい。うん、いいかも! フィーたら肉料理好きだもんね。調査が終わったら夕飯は鳥料理が美味しいお店にでも行こうか。でも、ちゃんと姿は消してね」
「キャウ!」
それは大丈夫と言いたげに白い子犬は大きく頷いていた。
――そして、
ちらりと青い瞳で僕の方を見たのだ。
「…!」
間違いない! 僕の存在に気づいている…しかも鳥肉を食べたいとか言ったよね~~!
こ、こわいよ~~!! ガクガクガク…ブルブルブル しばらくの間、僕は震えが止まらなかった。
子犬は主神フィヌイ様で、あの女の子は聖女様なんだ。
サンドイッチを食べ終わると、聖女様は子犬のフリをしているフィヌイ様を抱っこして、公園を出ると街の中へと消えていったのだ。
僕は尾行を断念する。フィヌイ様の無言の威圧を感じたからだ。
これ以上の追跡は危険だと…僕の直感が警報を鳴らしている。
僕は、これらの情報を伝えるためご主人との待ち合わせ場所に向かい飛び立つ。
待ち合わせ場所に着き、これらの情報をご主人に伝えると、珍しくご主人はしばらくの間考え込んでいた。
その様子から、どうやら聖女様たちとすでに接触があったみたい。
ご主人は僕に手紙を託し、ここを離れ一度王都に戻るようにと……僕はちょっと心配だったけどその指示に従いディルの街を離れる。
――僕が再び王都から戻った時、ご主人は聖女様と一緒に旅をしていた。
そして理由はわからないけど、ご主人はいつの間にか神様であるフィヌイ様の加護も受けていたのである。でも、ご主人は全然嬉しそうじゃなかった……。
子犬のフリをしたフィヌイ様を見れば、フフフフッと意味ありげに笑っているし……僕は、口をあんぐり開け呆然としてしまう。
何故だかわからないけど、ご主人のこれから先の人生がすっごく不安に思えたからだ。