羽毛もふもふ日記(10)
あれから早いもので数年の月日が経っていた――
僕は新しく『ノア』って名前をご主人からつけてもらったんだ。
由来は、え~と……古代語で良き知らせをもたらす者って意味らしい。
そして、小さかったご主人は気がつけば背がすらりと高く大人になっていた。
僕なんか幼鳥のうぶ毛がやっと抜けかわり始めたばかりなのに……ご主人に先を越されてしまったようで、ちょっと悲しいような微妙な気分だ。
そういえば、ご主人の師匠であるお爺さんが昔、僕は子供の霊獣だって言ってたなあ。霊獣は人間に比べると成長が緩やかなんだって。人間の成長って本当に早いんだなってしみじみと思ったんだ。
だけどこの数年の間にもいろんなことがあったんだよ。
例えば、ご主人が魔法学院を卒業してずっと仕えていた貴族がいたんだけど……そいつに裏切られてご主人は危うく命を失いそうになった。
ご主人は自嘲気味に、平民だから切り捨てられたって言ってたけど……。でも、僕は納得できなかった。前からご主人に理不尽な命令ばかりする奴だったし、僕はそいつのこと嫌いだったよ!
けどそのとき、意外にもこの国の王太子殿下がご主人を助けてくれた。
そして成り行きだけど、ご主人は今この国の王太子殿下の密偵として働いている。それに前よりも、ご主人は生き生きとしている。だから僕は今とても嬉しい。
僕も頑張ってご主人の役に立ちたい! ってご主人に向かって張り切って言ったこともあったけど、ノアは今のままでも十分に役に立っているから無理はするなって言われてしまった……。
だから僕は風の攻撃魔法は今も使えないままだけど……ご主人を僕なりに守るため、サポートを一生懸命頑張っているんだ。
そんなある日――ご主人は王太子殿下から秘密裏に任務を受けた。それは王都の神殿から消えた聖女様を探すことだった。
ご主人の仲間が神殿から仕入れた情報によると、主神フィヌイ様と共に聖女様は神殿を出て旅をしているようなんだ。
そんな理由から、神力の動きを察知できるご主人が選ばれた。
そして、ご主人と僕はさまざまな情報を頼りに、聖女様に会うため商業都市ディルの街へとたどり着いたのだ。