羽毛もふもふ日記(9)
前の我儘な契約主からぽいと捨てられ、魔力の供給が途絶え、僕の存在は不安定になっていた。けどここ最近は存在そのものがだいぶ安定してきたんだ。
僕はお爺さんの許可を得て、外の世界に出してもらえることになった。
魔力が薄い人間の世界に出ても、もう消える心配もない。新しい契約主となったご主人が、鳥の霊獣である僕に魔力を供給して助けてくれるから。
え~と…つまり、わかりやすく言うとね。人間は空気がないと生きられない。それと同じで霊獣は魔力が濃いところじゃないと生きていけないんだ。簡単に言えば、ご主人は僕に魔力の薄い人間の世界でも生きていけるように、人間でいうところの空気を供給してくれるんだ。
難しい話はこれくらいにして…。
ご主人は僕に色んな話をしてくれた。
例えば、師匠であるお爺さんの部屋にある地図を見せてくれて、子供の小さな指で現在地を示してくれた。話によると、どうやらここは西の大陸の内陸に位置するリーゲル王国というところらしい。
僕の住んでいた北の大陸の場所も教えてくれたけど、なんか凄く遠いところまで連れてこられたみたい…。
西の大陸っていったら、完全に人間の国がたくさんあるところだし、これではすぐには帰れそうにない。
ん? リーゲル王国って、確か…地上に残ることを選んだ神様がいるところなんじゃと思い、ご主人に聞いてみたら、
「は! この国に神様なんているわけねえよ」
その存在を強く拒否するような言葉だったけど…その瞬間、ごちんと固い音がした。見れば、やっぱりというべきかお爺さんが持っている重たい杖の先端が、ご主人の頭の上に落とされていた。
師匠であるお爺さんは、眉間をぴくぴくさせ怒っている。
「馬鹿もんが!! ラース、お前はこの国の主神であるフィヌイ様を冒涜する気か!!」
「痛えな――! くそ爺!! 俺はそんな見たこともねえもんは信用しねえよ!」
え? そうなの…僕は見たことはないけど、大きな神力として存在を感じることができるよって、ご主人に伝えてみた。
「そんな~ お前まで爺の味方なのかよ…」
「ほれ、この霊獣もフィヌイ様の存在を感じておるじゃろうが。フィヌイ様は王都の神殿にいらっしゃる。お前の妹君も聖女としてそこにいるのじゃからな」
「俺、妹に会いたい…」
「そう思うなら、ラースよ修業に励むことじゃ。フィヌイ様は慈悲深い。いずれ、再会することもできるじゃろう。そうじゃ…! これもいい機会じゃし、お前に神力を察する修業をつけてやろう」
「なんだよそれ!」
お爺さんの突然の思いつきに、不満ありげなご主人の声が部屋の中に響いたのだ。