羽毛もふもふ日記 (5)
薄れゆく意識の中で最後に願うこと。
それは僕が生まれた場所。北の大陸の果てにある神域、大森林に帰りたいということだった。
この国よりも寒いところだけれど、故郷に帰れたらどんなに幸せだろうって思うんだ。
良かった…最後の瞬間がこんな穏やかな気持ちで。
憎しみや、悲しみ、怒りなどの負の感情が強くて命の最後を迎えた、つまりは死んだ霊獣なんかは、悪しき神に魅せられ魔物になってしまうって話を聞くもの。
魔物になってしまったら、全ての命あるものを傷つけ、その命を奪い、自分が倒されるまで止まることはないっていうから。
きっと…心地よい温もりに包まれているお陰だね。
なんだか誰かの腕の中に包まれているみたいで、優しくってポカポカと温かいんだ。
まるで、大森林にある僕のお気に入りの大木の上で、ひなたぼっこをしながらスヤスヤとお昼寝をしているときのように。
しばらくの間、心地よい揺れと温かさに身を任せスヤスヤと眠ることにしたんだ。
どのくらい時間が経ったのか。僕が何となく重たいまぶたをもち上げて見ると、
そこには――
「……?」
黒い髪と同じ色の目をした、僕の知らない人間の男の子がいた。なんだか、心配そうにこちらを覗き込んでいるみたい…
変だな…? 僕は地上での存在そのものは消滅して、つまりは死んでそれから魂だけの存在となって天上に召されたはずなのに、目の前にまたもや人間の子供がいる。
おかしいな? まだ夢の中なのかな…。まあいいか。もう一度目を開けてみよう。
再び目を閉じてゆっくりと目を開くと、そこには、
「お前、目が覚めたんだな!」
あれ? また、目の前に黒髪の男の子がいる…!
それになんだか、凄く喜んでいるみたい。
地上での僕の存在は消滅したんじゃなかったの?? そうすると、ここはまだ地上ってことになるよね…
僕は、まったく状況がつかめずそのままピシッと固まったんだ。
「おい、どうしたんだよ? 今度は目を開けたまま固まって…! おい、くそ爺――! こいつを助けるっていったじゃないか!? 俺に嘘をついたのかよ!」
今度は男の子は大騒ぎをしながら、すぐ後ろにいる人間を思いっきり睨みつけていたのだ。