トラブル発生
周りにいる全員の注目が集まる中で、ティアはなんとか口を開き。
「え・・え~と、ごめんね。お姉ちゃん、聖女様じゃないんだよね・・」
「どうして・・?僕の目を治せるのは聖女様しかいないって、お母様が言ってたよ」
男の子は不思議そうに首を傾げている。
無垢な突っこみにティアは言葉を失うしかなかった。
周りの大人たちも、そうだ、そうだ・・こんな奇跡を起こせるのは聖女様以外ありえない――と囁いているし、
どうしよう・・これ以上、誤魔化しきれないよ~
ティアがもう駄目だと思ったとき、助け船は意外なところからやって来た。
「ウィル、修道女様が困っているでしょ。そういうこと言ってはいけません」
「お母様・・どうしてですか?」
ウィルと呼ばれた男の子のお母さん。そうあの女の人がフォローに入ってくれたのだ。
「この方は・・本当は聖女様だけど今はお忍びの旅をしている最中なの。本当に困っている人達を陰ながら助けているから、今は絶対に身分を明かせないのよ。そうですよね、修道女様」
お母さんの微笑みに、ティアはこれ幸いとばかりに頷く。
「わかりました。いろいろと大変なんですね」
ウィル君は素直に納得してくれたようだ。
それを確認するとお母さんは大きく手を叩き、
「みなさんも、わかりましたね」
周りを見渡し高くよく通る声が響く。見た目の淑やかな外見にも関わらず有無を言わせぬ力が込められていた。
どうやら周りの人たち――この家の侍女や使用人の皆さん、それに護衛に付いているのは騎士の方たちのようで、主人の言葉に、ティアにむけていた羨望と好奇の視線をおさめ、居住まいを正したのだ。
ただ一匹(?)フィヌイ様だけは、つまんないと言いたげに頬を膨らまし、小さな足をふみふみ、地団太を踏んでいる。
その姿も、ちょと可愛いなあとティアは思いつつも、今は目の前に視線を向け、
「名乗るのが遅れてしまい、申し訳ありません。私は、カリオン侯爵家の当主ランツフートの妻セシルと申します。そして、こちらが息子のウィリアムです」
「お姉ちゃん。僕のこと、ウィルって呼んでいいからね」
「ありがとう。ウィル君。私は修道女のティア・エッセンです。ティアで構いません」
セシルさんから丁寧な挨拶され、ティアは恐縮してしまう。
やはり貴族なんだと、その洗練された所作に見惚れつつ、感心してしまうのだ。
ウィル君は、赤銅色の柔らかなくせ毛に、若草色の瞳の可愛らしい男の子。
母親のセシルさんは、若草色の瞳にゆるいウェーブがかかった長い金髪の、淑やかで綺麗な二十代半ばくらいの女性だ。
でも、今までの経験から見た目と実年齢は違うこともあり、年齢については保留にしておく。
聞けば、当主である旦那さんは王宮で役職についているため、ウィル君と二人で東の領地に、静養も兼ね戻る途中のようだ。
そのウィル君は、私たち二人の話に飽きたのかそこら辺で遊んでいた。
まだ、活発に動き回らないほうがいいのだが、よほど嬉しかったとみえ、見るもの、さわるもの興味津々といった様子だ。
だが、こういう時にトラブルは発生するもの・・
突然、子犬の甲高い悲鳴が聞こえたと思ったら、
「キャン、キャンキャン――!」
―― ティア―! 助けて・・なんとかして~!
それは、フィヌイ様の助けを求める声――
慌てて声がした方を振り向くと、その光景にティアは固まったのだ。




