羽毛もふもふ日記 (4)
それはこのお屋敷に来て、初めて外に出してもらった時のこと。
僕は契約主でもある、無駄に偉そうな貴族の子供に連れられ『魔法学院』ってみんな呼んでいる、大きな建物に行ったんだ。
魔法学院に着き、契約主と一緒に、従者と馬車を降りると、どうやらこの契約主の取り巻きらしい奴らが出迎えたのだ。
だって誰が聞いても…嘘だなって思えるお世辞ばかり言っているんだもの。人間って大変なんだね…。
僕はちらっと横を見ると、その言葉に気を良くしたのか契約主は、体をのけぞらせて大威張りな態度で喜んでいる。変なの、それ嘘なのに。
僕が不思議そうに首を傾げている、そんな時だったかな――
すぐ近くを、本を持った男の子が歩いて通り過ぎたのだ。
契約主は、取り巻きからなにやら小声で説明を受けると、意地悪く笑っていた。
「そうか。あそこにいるのが、例の特待生として入学した平民階級の成り上がりか…。おい! あそこに気に入らない奴がいる。そいつを後ろから風魔法で攻撃しろ! お前の実力を見てみたい」
「…! ピピ、ピピピー!!」
いきなり、そんな感じで命令されたけど、僕はその命令に断固として従わなかった。
目の前の男の子がなにかしたの? 意地悪なんかしていないよね! なんで、何もしていない子にそんなことしなくちゃいけないの! 人間は…そりゃあ好きじゃないけど、誰かを傷つける風魔法なんて使いたくないよ!
僕が反抗して言うことを聞かないでいると、主の顔はみるみる赤黒く不機嫌になっていく。
「ピピ!!?」
そして――契約による魔力の締め付けが始まり、息ができなくなったんだ。けど、それでも僕は言うことを聞かなかった。
「この僕に恥をかかせる気か! 霊獣のくせに生意気な…この役立たずが!! もういい! お前との契約は解除だな!!」
契約主は力の限り僕を両手で握り潰すと、近くにあった壊れた道具が置いてある不用品置き場に、ポイと投げ捨てたのだ。
なんかその時、さっき本を持って歩いていたあの男の子と目が合ったような気がしたけど、気のせいだよね。
前に――契約主の機嫌をとった方が長生きできるぞ。せいぜい要領よく生きるんだなって、僕をこの屋敷に連れてきた人間が笑いながら言っていたけど、僕は要領が悪いから絶対に無理だよ。それに、そんなことまでして生きたくない…。
誰かを傷つけるために、魔法を使うのはどうしても嫌だったんだ。
だって、自分が同じ事されたら痛いし、悲しいよね。それが嫌だったから。
僕は、薄れる意識の中でそんなことを考えていた。
契約主はもともと癇癪もちで、沸点も低かったから捨てられるのは時間の問題だったのかもしれない。
そうしている間にも、契約が解除されたことにより魔力の供給が止まり、僕の意識は段々と遠のいていったんだ。