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聖女の肖像画 ~ラース編~(11)

 アイネは、どこか慈しむように微笑むと言葉を続ける。


 「ラースさんが、ティアのこと大切に思ってくれているのがよく伝わってきます。孤児院にいた頃から、親代わりとしてあの子を見守っていた私としてはとても嬉しいことですわ」

 「な…。そういうことを聞いているわけじゃないだろが」


 「それに宮廷画家ハイデルさんの描く肖像画には、その人の心の内面をも描くと言われています。つまり、あの絵はティアの内面を表しているんです。嘘ではない、もうひとつの真実。ティアの本当の姿でもあると私は考えています」


 納得できるような…出来ないようなことを言っているようだが、それでも嘘ではないようだ。


 つい頭に血が上ってしまったが、冷静によく考えてみれば…今回の肖像画については、例外となる。そのことを思い出したのだ。

 今までの肖像画は絵が完成すれば、すぐに歴代の聖女の肖像画が収納されている神殿の「白銀の間」に収められることになっている。その絵を見ることができるものはごく僅かな者だけだ。

 だが今回の聖女の肖像画は、年に二度、冬至と夏至の日に行われる天赦祭で国民にお披露目されることが決まっている。

 それを考えれば、アイネの判断は正しい。


 「すまない…。あまりにティアがド庶民すぎて肖像画にも描けないから…それで、いいかげんな絵を描くよう指示したのかと、勝手に腹を立てていた。よく考えればわかることなのに」


 ティアが聞いていれば怒りそうなことをラースはさらりと言っていたが、アイネは相変わらずにこにこと微笑んでいた。


「いいえ。こちらこそ事前の打ち合わせをせずに決めてしまい申し訳ありません。陛下の要望が急だったもので、つい」


 アイネは申し訳なさそうに謝罪する。だが、どこか楽しそうに先を続けたのだ。


「ですが、本当に素晴らしい絵になりそうですわね。芸術というものは、ただ見たままでなく内面を映す鏡ようなもの。もう一人の聖女としてのティアがそこに在るのですから。ラースさんがベルクさんに助言して頂いたティアの長所。『全てをありのままに受け入れ、みんなに希望を与えることができる存在』とても素敵な言葉だと思います。だからこそ、フィヌイ様はティアを選んだのでしょうね」



 夜道を歩き、ノアの温もりを感じながらラースはため息を吐く。

 今考えれば、あの女神官長に丸め込まれたような気もするが…。

 まあ、憂鬱な仕事が終わったのだ。良しとするべきかとラースは気持ちを切り替えることにする。


 完成した聖女の肖像画は、次の夏至の日に行われる天赦祭で一般に広く公開される。

 今度はティアを誘って、天赦祭に行くのもいいかもしれない。ついでにそこで、聖女の肖像画を見てみるのも悪くはないかもしれないな。

 ラースはどこか楽しそうに思いを巡らし、夜空を見ながら王城までの道のりを歩いていたのだ。


~・ おわり ~・~

ラース編やっと終わりました。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

次はweb版で書きたかったけど断念…出番の少なかったノアの話になります。


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