聖女の肖像画 ~ラース編~(7)
いや…なんていうか誰だこれ!? まったくの別人だろうが!
制作途中の聖女の肖像画をみて、ラースは思わず絶句する。
そこに描かれていたのは、絵に描いたような美しい慈愛に満ちた聖女。まあ、髪と目の色だけは実際のティアに似てはいるが…。
「アイネ神官長や、旅の途中でティア様を見た。また言葉を交わした方々からの証言をもとに制作したものですじゃ。いかがですかな」
「…。そうですね……慈愛に満ちた表情が聖女らしいというか、なんというか」
表面上は、当たり障りのない言葉をラースは並べる。しかし心の中では……
いや、そもそも無理矢理に美化しただろ! 盛り過ぎにもほどがあるだろうが!?
あの女神官長も、普段何を考えているのか意味不明だが…。旅の途中でティアを見た奴らって誰だよ!!
お前ら、揃いも揃って目が相当悪いんじゃねえのか?
そもそも、こんな嘘の絵でいいのかよ?
無理やりこじつけたとしても、実際のティアを最大値まで美化した絵だとラースは思った。
絵の中の聖女は、絶世のという言葉がつくくらいの清楚で美しい少女。だが現実に存在する、ど庶民のティアとは似ても似つかない。
表面上は冷静に、なるべく表情に出さないようにしていたが、心の中ではラースは突っこみの連続だった。
「まあ、聖女らしく慈愛に満ちていますわ。絵を見ているだけなのに心が洗われるよう。きっと、この場にいないティアも喜んでくれると思います」
「ありがとうございますじゃ。しかし、この絵を完成させるためにも、今は亡き聖女様の最も近くで共に旅をされていた方の証言も必要不可欠! ささ、聖女様のエピソードがあれば聞かせてほしいのですじゃ!」
…やっぱり。
ラースは今日、何度目かになる深いため息を吐いたのだ。
そもそもティアに、聖女らしいエピソードなんかあったのか…。疑問に思いながらもラースは懸命に頭を捻り考え始める。