聖女の肖像画 ~ラース編~(6)
「そうそう、改めまして。私は宮廷画家のハイデルと申します。今回は、国王陛下からの名誉ある依頼を受け、聖女ティア様の絵を描かせて頂くこととなりました」
「ラースさんもご存じかとは思いますが、王家の肖像画も数多く描かれている高名な方なんですよ」
「ええ…そうですね。名前だけは」
宮廷画家ハイデル。確かに名前だけは聞たことはある。一切の妥協を許さず、まるで絵に命が吹き込まれているかのように描く、歴史に名を遺すであろう高名な画家。
芸術家は変わり者が多いとは聞いてはいたが、まさか俺もこんな変な爺さんが出てくるとは夢にも思わなかったが。
なにも無かったかのようにハイデルはアイネ神官長と和やかに話をしている。
ラースはそんな二人についてはいけず、早くもなんとも言えない微妙な表情のまま、はるか遠くを見つめていたのだ。
「ふぉほほほ… アイネ神官長、光栄なお言葉ですがそれは褒めすぎというもの。画家というもの!! いかにしてその人物の表面の姿だけでなく、内面の姿を描くことができるかそれが大切なことなのですじゃ」
「まあ、つねに高みを目指しているのですね」
ハイデルの変な爺さんは、自分の白い顎髭を撫でながら静かに頷いている。
「聖女ティア様の大まかな姿は、イメージとしてだいたい掴んでおりますが、やはり人となりを知りたいと思いまして。そう、絵の完成には是非とも必要なことなのですじゃ!! 今、製作途中の絵もお見せしますので、ラース殿にはいくつか話を聞かせて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
「ええ、わかりました」
ラースは心底めんどくさいと思ってはいたが、素直に頷く。
そして宮廷画家ハイデルは、大切に布が掛けられている制作途中の聖女の絵を持ってくると、ラースへと見せたのだ。
「………!!!?」
その絵を見た途端、ラースは衝撃を受け思わず目が点になる。
はっきり言って、まったく言葉がでなかったのである。