聖女の肖像画 ~ラース編~(5)
「おお!! 貴方様が、今は亡き崇高なる聖女ティア様と共に、世界を救う旅をしていた方ですかな?!」
「は、はあ…」
何だこいつは…。ラースはドン引きだった。
いきなり自分に向かい全速力で突進してきたかと思えば、前のめりになりじろじろと角度を変え俺を見回してくる。ハッキリ言って迷惑極まりない変な爺さんがそこにはいた。
あの女神官長はそれを放置したまま、少し離れた位置からこちらをにこにこしながら眺めている。
「まあまあ、困りましたわね。こちら宮廷画家のハイデルさんなんですけど……絵に対する情熱はとても素晴らしい方なんですが。これでは落ち着いて自己紹介ができませんわね」
アイネは自分のペースを保ったまま、ほがらかな表情で少し困ったように頬に手を当て、さらりと宮廷画家の自己紹介をおこなったのだ。
「こほん。先ほどは大変失礼いたしました。なにせ、あの高名な聖女ティア様と共に旅をされていた方とお会いでき、感動のあまり聖女様の気配が残っていないか、それを絵に取り込めないかとつい暴走してしまいましたな。ふぉほほほ…」
やっと落ち着きを取り戻したのか……宮廷画家の変な爺さんは俺の目の前で、何事もなかったかのように朗らかに笑っていた。お前、ただ笑って誤魔化していやがるだろ!?
とラースは思ったが、そこはぐっと我慢し大人の対応をする。表面上それは仕方がないですよね…と取り繕ってはいたが。
ほんと、めんどくせえな。おい!
お前ら上流階級の連中との会話は、本当に疲れるから話すのも嫌だったんだよ! と心の中でそう思いながらも、今日何度目かの大きなため息を吐いたのだ。
神殿の一室にて、宮廷画家が絵の制作を行っている部屋へと案内され、アイネと共にラースが部屋に入った途端これである。
ラースは神殿に来たばかりだというのに早くも、どっと疲れが押し寄せてきたのだ。