聖女の肖像画 ~ラース編~(4)
ん? 待てよ。つまりは、ティアの肖像画ってことだよな……。
ああ~ 面倒なことになったなあとラースは心の中で深いため息をついたのだ。
当の本人は王都から遠い村で、今はリベル婆さんのもと、薬師見習いとして今日もあくせく働いてはいる頃だろうが。
表向きは諸事情から……邪神の脅威から聖女は命をかけて国を守り、その引き換えに天に召された、つまり聖女は死んだということになっている。
聖女の最も近くで一緒に旅をしていた俺の意見も聞きたいってことかよ。
はっきり言って、めんどくさいことこの上ない。
早くもラースは……仕事が山積みだからとか言い訳をして、速攻で王城に帰りたいと思っていた。こんなことなら、セレスティア殿下の仕事をこなす方がまだましだと思えるほどに。
アイネは、ラースの心情を察したのか言葉を付け加える。
「ラースさんの意見を聞きたいと言ったのは、もちろん陛下ではなく……宮廷画家からの要望なんです。困ったことに私だけでなく、聖女の近くで共に旅をした人物の意見も是非取り入れたいと……断ることも考えましたが、そうすると周りからは不自然だと思われますし、申し訳ありませんがしばらくお付き合いくださると助かりますわ」
「…そういうことでしたら」
正式な手順で呼び出された内容なのだ。よほどのことがない限り、断ることなどできない。渋々だが、ラースは頷くしかなかった。
「まあ、よかったわ。肖像画そのものはほとんど完成に近づいていますし、そんなにラースさんの手を煩わせることはありません。どうかご心配なく」
目を細め、ニコニコとこの女神官長は笑顔で話してはいたが……ラースはその笑顔をみていると、理由はわからないが何とも言えない不安が心によぎっていたのだ。