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聖女の肖像画 ~ラース編~(1)

番外編、ティア編のすぐ後の話となります。

ネタバレ注意。

 

 外の世界とは違い、白亜の大理石で造られた建物。その中では、神殿独特の香が焚かれていた。


 彼は前を行く神官に案内され、神殿内を歩きながら周りの様子をそれとなく観察する。

 王都にある神殿――この国の主神フィヌイが住まうと言われている場所。


 昔に比べれば、神官連中を含め多くは入れ代わり、俺が不快な気分になることはなかった。ティアが昔、下働きとしてここで働いていた頃に比べれば、多くの人間は神殿を去っていたという。

 つまり前神官長に比べ、今の神官長は不正に厳しく、実質左遷という形で追い出された奴が多いと聞いていたからだ。


 それでも、相変わらずラースは王都の神殿が苦手だった。

 彼は短く息を吐くと、若干憂鬱な気分になる。

 なんで俺がこんなところに来なくちゃいけないのかねえ~。


 こんなところに来るくらいなら、彼が王城で仕えているセレスティア殿下の嫌味を永遠と聞いている方がまだましだ……。

 この国の主神のことを直接知っているだけに、ここに来ると何とも言えない気分になる。

 ここの神官連中は、熱心に祈りを捧げているようだが……

 あんな犬っころを拝む暇があったら、他のことでもやった方がいいんじゃねえのかとつい思ってしまうのだ。


 犬っころとは――この国の主神フィヌイのことだ。

 この国の伝承によれば、初代国王を助け戦乱の世を終わらせた偉大で崇高な神だとかなんとか……俺に言わせれば、呆れるくらい話はかなり盛られていると感じたわけだが。

 その姿も気分によって姿かたちを変えると言われており、人の姿であるときもあれば、動物の姿になることもあるという。


 そして実際、ラースが見たのは白い狼の姿だった。

 狼といっても、大きな白狼の姿でいるときも、あるにはあったが……普段は、間のぬけた顔をした犬っころの姿。

 しかも、頭が良さそうには……とてもじゃないが見えない。

 素直な感想は、飼い主に似て食い意地が張って、よく訳のわからん行動をとる、無駄に偉そうな犬っころ。

 ああ…でも、フィヌイ本人は子狼の姿とかほざいてはいたか。


 その飼い主と言うのは、フィヌイが選んだ聖女――つまりティアのことだ。

 こいつもかなり食い意地の張った変な奴で、ただ諦めの悪さと、根性があるところは長所だと言える。


 ティアと白い犬っころの姿をしたフィヌイ。

 こいつらは非常によく似ていた。はたから見れば小娘の飼い主に、ただの白い犬ころが旅をしているようにしか見えないが、実は聖女とこの国の主神だったりする。


 旅の道中ラースは、聖女と主神フィヌイと共に旅に同行していたのだ。そう言ってしまえば聞こえはいいが、現実はこいつらのただのお世話係といったところか……

 まあ、いろいろあったが……今振り返れば、かなり面白い連中だったし楽しい旅でもあったか。


 そして、今日ここに来た目的もそのことと関係している。


 「ラース殿、神官長がお見えになるまで、こちらの客間でしばしお待ちください」


 

 客間へと案内してくれた神官は扉の前で立ち止まり、彼に恭しく頭を下げる。

 その言葉に、ラースはふと我に返ると扉の向こうにある部屋へと入ったのだ。

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