フィヌイの散歩(14)
フィヌイは、その光景を優しく見守っていた。
もちろん相変わらず、ハマグリの中にある貝柱を取ろうと懸命に格闘し、外の様子など気づかないふりをしながらである…
そう、外にいる野良犬は…マツリカに今まで意地悪をしていた例のガラの悪い犬だ。
あの犬だって、根っからの悪い奴ではない。
心の底では…そんな自分に嫌気がさしているのに、心の底を見ないように、気づかないふりをして意地悪を止めることができないでいた。
だって、自分が弱いって認めたくないから。強いんだって偽りでも、虚勢を張っていたいから。
最初は素直な性格だったのに…悪意ある人間によって性格が屈折して、心が酷く傷ついていた。
けど…本当に申し訳ないことをしたって気持ちが少しでも残っていて、マツリカに謝りにきたんだね。
マツリカは、本当に心が綺麗で優しい子。神様はそんな人間が大好きなんだよ。
そんなことをハマグリと格闘しながらも、フィヌイは一人と一匹を優しく見守っていたのだ。
「いや~ マツリカって偉いなあ。自分のご飯を、お腹を空かせた犬に分けてあげるだなんて。私も聖女として見習わないといけないかな。あんな風に、みんなに少しでも幸せを渡せるような人にならなくっちゃね」
「お! ティアにしては珍しくいい心がけだな。しかし…明日は雪でも降るんじゃねえのか」
「ちょっと、なによそれ!」
ラースの軽口にティアは頬を膨らませプウーとむくれていたが、ふとなにかを思い出したのか、フィヌイの方に向かい、
「そういえば、フィヌイ様の神力には制限があるって前に言ってましたけど…今回に限っては大丈夫なんですよね? マツリカが湖に祈りを捧げて願いが叶ったって言っていたし、偶然にしてはちょっとおかしいような…やっぱり何かあるとか?」
ティアの質問に、フィヌイは貝殻をいじっていた前足をピタッと止めたのだ。