フィヌイの散歩(13)
ティアも、満面の笑みを浮かべると食べ始める。
まずはスープからと、ティアはアクアパッツァを一口。
うん! やっぱり新鮮なお魚っておいしい~!
魚の名前は忘れたけど…フワフワした白身のお魚の蒸し具合がたいへん素晴らしい。
つけ合わせのトマトやアスパラの出汁がお魚と合わさって、最高の旨味がでているし、ハマグリっていう貝も弾力があるのに柔らかい。これが海の味なんだ~ と感動してしまう。
そして続いて、パエリアって呼ばれているこの国では珍しいお米を使った料理だ。
エビや、これも名前のわからない貝やお魚、それにトマトやパプリカの色とりどりの野菜。とにかく魚介の風味がいい具合に染みこんだお米に、旨味が濃縮され美味しくって最高だ!
いや~、いつもは乾燥した干し魚。しかも小魚が主で……。普段はそれしか食べていないから、どれを食べてもやっぱり美味しいし、幸せだ~。
これは、主神であるフィヌイ様に感謝しなければとティアが思っていると――
そのフィヌイ様は子狼の姿のまま、ハマグリという名の貝と真剣な表情で格闘していた。
貝殻にくっついた貝柱を、なんとか取ろうと、前足で懸命に抑え取ろうとしている。
最初、ティアは食べやすいように貝柱をきれいに取って器に入れようとしたら、自分で取ってみたい! と言ってきたので貝殻付きのまま器に入れたのだ…
可愛い小さな前足で貝殻を押さえ、もう片方の前足でちゃちゃちゃっと取ろうとしている。
フィヌイ様は、器の中のご飯も食べ終わり、今は懸命に貝柱を取ろうと必死だ。
でも…そんな姿も貴重でまた可愛いんだよね、とティアはほんわかした気持ちで和んでいると。
ふと、なんとなくだが食堂の入口に視線を向けてみると、そこには見たことのない大きな犬がこちらを覗いていたのだ。
どうやら野良犬のようで。
「?」
はて? 見たことのない犬だけど…どうしたんだろうとティアが考えていると、
その野良犬に気がついたのか、マツリカは空いている器に食事を入れると迷わず外まで走っていったのだ。