フィヌイの散歩(12)
マツリカは、椅子に座ったまま、きょとんとしていた。
なんで自分がここに座っているのか、よくわからないのだ。
安くて美味しい魚料理が自慢の食堂にティアお姉ちゃんたちを案内して、自分はそのまま家に帰るつもりだった。でも、気がつけばみんなと一緒にテーブルに案内され席についていた。
すでにテーブルの上には、ティアお姉ちゃんが注文した様々な料理がつぎつぎと並べられている。
「あの~、ティアお姉ちゃん…」
「もぐもぐ…ん? どうしたの」
「私、お金持っていない…」
「なんだ、そんなことか。大丈夫! そこのお兄さんが奢ってくれるから、好きな物を注文して食べていいんだよ!」
「あのなぁ…マツリカは良いが、ティア! お前は、努めて遠慮しろ! お前が本気で食べたら全メニュー制覇するとか言い出すんだろうが」
「え…! なんでわかったの」
「やっぱりか…」
ティアとラースのやり取りをマツリカは不思議そうに見つめていた。
しかし、フィヌイだけは落ち着いた様子で、配膳のお姉さんが持ってきてくれた水を子犬のフリをしてぺちぺち飲みながら、こんなのいつものことだよっという顔をしている。
ティアは、テーブルに置かれているメニュー表を見ながら、キラキラと目を輝かせていた。
目の前に並べられている前菜の料理とは別に、メインディッシュにこのお店のおすすめ料理! アクアパッツァとパエリアを注文したのだ。――しかも特大サイズの大皿で!
他にもマツリカの希望も取り入れながら、次々とティアは料理を注文していく。
そして程なく、注文した料理がテーブルの上に並べられると、ティアは満面の笑みを浮かべ、気がつけば顔がほころんでいた。
まずは、アクアパッツァから見てみると、
大皿の中央には大きなお魚が一匹でん! とのっており、周りには彩でトマトやアスパラなどの野菜、ハマグリと呼ばれる貝なんかもちりばめられて、前菜を食べた後だけど…今にもお腹が鳴きだしそうないい匂いが漂っている。
まずは、アクアパッツァに手を伸ばすと、大皿にのっている魚の身をほぐしにかかったのだ。
見た目でもわかる、良質な脂が良くのった柔らかい白身のお魚。だが硬い骨もあり、子狼姿のフィヌイ様やマツリカにはよろしくないと思ってのこと。
だが、考えてみればこんな大きなお魚などほぐして骨をとったこともなく…。
結局は、見かねたラースが代わりに魚をほぐし、固い骨だけでなくきれいに小骨までとってくれたのだ。ティアは食べやすいように、みんなの小皿に料理を取り分けることに専念する。
まずは、下でお座りをして行儀良く待ってくれているフィヌイ様へアクアパッツァを入れた器を置く。そのとなりには魚介類のパエリアが入れられた器もあったが、賢いフィヌイ様は料理が揃うまで、食べずにお座りをして待っていてくれたのだ。
そしてみんなの料理が揃うと、品よくみんなと一緒にフィヌイは食べ始めたのだ。