フィヌイの散歩(11)
「このお姉ちゃんが聖女様の力を使ってくれたから、お母さんの病気、絶対にすぐに良くなるよ!」
「ええ。ありがとう、マツリカ…」
娘の気遣いに、お母さんは僅かに笑顔を浮かべていた。
「それにお父さんだって、家に帰ってきてくれる! だって、お父さん悪いことなんかしていないもの! 私の願いが届いて、主神フィヌイ様が来てくれたんだから絶対に大丈夫だよ」
「そうね。そうだと、いいわね…」
顔を曇らせたお母さんの言葉に、ティアとラースは顔を見合わせる。
そんなティア達の様子に気づいたのか…お母さんは、ぽつりぽつりと事情を話してくれたのだ。
「どこにでも、居やがるんだな。そういう奴ってのはよ!!」
「ほんと! 無実の罪をきせて、マツリカのお父さんを牢屋に入れるなんて、その貴族最低!」
二人の言葉にフィヌイ様も狼の耳をぴんと立て、そうだ、そうだ!! と頷いていたが、今度はじーとラースの顔を見つめていたのだ。
あいつはその意味をすぐに理解したのか…しれっとした態度で、
「まあ、どちらにしろその貴族は近いうちに失脚する。だから安心しろ! お前の親父さんもすぐに帰ってくる」
「ほんとうに、お兄ちゃん!」
「ああ、間違いない」
「ええっと…それはどういう……」
ラースの言葉にマツリカは無邪気に喜んでいたが、お母さんは困惑していた。
「その貴族、王都でも問題になっているらしくってな。近々王家が処分を下すらしい。そういう噂を確かなところで耳にした。だから間違いないだろう。これも、主神フィヌイ様のご加護ってやつだろ」
「はあ…そうなれば私も嬉しいですし、街の皆も生活が楽になると思います」
その言葉にまだ困惑しているようだったが、それでもお母さんは少し希望を持てたようだ。
でも実際…ラースはセレスティア殿下に働きかけるつもりなんだろうが。
しかし、あいつがこうはっきりと断言しているところを見ると…その貴族他にも散々悪事を働いていて、本当に目をつけられていたのかもしれない。
それにラースの奴…悪い貴族が相当嫌いらしい。なんかその貴族、けっちょんけっちょんのズタボロにされそうな予感がする。
「あの…治療費も払えないのに、ここまで皆さんの好意に甘えてばかりいるのも、なんか申し訳なくって…」
「それなら、美味しいお魚料理を出すお店を教えてもらえませんか!! 実は、今日はあまり食べていないもので…」
お母さんの言葉にティアは間髪入れず提案する。ラースがすぐ隣で何か言いたそうな、引きつった顔をしているがそれは無視だ。
「いいよ! 安くてすごく美味しいお店に連れて行ってあげる!」
マツリカの言葉にティアは満面の笑みを浮かべ頷いたのだ。