フィヌイの散歩(10)
ティアは笑顔で頷きながらも、頭の中では懸命に考えていた。
今回の場合…いきなり治すとお母さんにすぐに気づかれてしまう恐れがある。
さて、どうするべきかとティアが悩んでいると…フィヌイ様の声が聞こえてきたのだ。
――ティアはふつうに治癒の奇跡を使っていいよ。僕が遅効性にすぐに切り替えるから。少しずつ、少しずつ病が快方にむかうように治していこう。
「わかりました。それでお願いします」
ティアは、小声でこっそりとフィヌイに伝える。この会話は、少し後ろで控えているラースを除き、そのことに気づいている者は誰もいないようだ。
マツリカはお母さんに嬉しそうに話してかけているし、お母さんも気づいていないようだ。
「ねえ、お母さん、もう心配ないよ。聖女様が…ティアお姉ちゃんが来てくれたから、病気必ず治るからね!」
「マツリカありがとう。ティアさん、すみません。娘のわがままに付き合わせてしまって…」
「いえいえ、フィーを一晩泊めてくれて、それにご飯まで頂いて。この子、元気がいいから目を離すとすぐにいなくなるんです。本当に助かりました。だから気にしないでください。これは私とフィーからのせめてものお礼ですから」
わかりましたと――マツリカのお母さんは頷いてくれた。
どうやらお母さんの方は…私のことを治癒魔法が使える、ただの旅の修道女だと思ってくれたみたい。
幼いマツリカをがっかりさせないため、私たちが話を合わせてくれている…そう考えてくれたようだ。
ティアは旅の修道女のように振る舞うと、まず幾つかの薬草を調合した薬を、数週間ぶんに分け渡すことにする。
そして、この家の台所を借りてお湯を沸かし薬草を煎じたのだ。
気持ちが落ち着いて体調が楽になるからと、お母さんに薬草茶を作り…お母さんがお茶を飲み終わると、
フィヌイ様の補助のもと、治癒魔法に見せかけた治癒の奇跡を使う。
もちろん、少しずつ病が治っていくようにしながら。
マツリカはその様子を見て、目を輝かせていた。