フィヌイの散歩(7)
その日の夜――
気がつけば、子狼姿のフィヌイはマツリカの家にお泊りをすることになっていた。
家とはいってもとても粗末な造りで、すきま風がぴゅーぴゅー入ってくる。
マツリカの身なりを見て粗末な服を着ていたから、もしかしたらと思ったら…やっぱりそうだったみたい。
でも、念のために言っておくけど――僕は、心が綺麗な人間が好きなんだ。いくら金ぴかで上等な服を着て、美しい外見でも、ばっち~い心の人は嫌いなんだよ。
あ、なんか話が横道に反れちゃったけど…
つまりマツリカのお家はこの街の裏路地にあって、周りの家と比べても特に貧しいみたい。
そんな中でもマツリカは、お母さんと二人で慎ましく暮らしている。
マツリカのお母さんはとても愛情深く優しい人で、子犬としての僕をとても気にかけてくれている。
ブラッシングもしてくれたし、飼い主がいるのではないかととても気にかけて、もしかしたら飼い主が心配しているかもしれないから明日、探しに行ってあげなさいってマツリカに言っていた。
本当はお父さんも一緒に暮らしているみたいだけど、今は家にはいない。
よくよく話を聞いてみると、この街を牛耳る悪い貴族に向かってみんなの苦境を訴えたら、無実の罪を着せられて牢屋に入れらているんだって。
もちろん、お父さんが無実であることをこの街の役所に訴えたけど相手にもされず、マツリカのお母さんはもとから身体が弱いうえに、心労が重なり病気になって、病で伏せることが多くなったんだ。
そんなお母さんを助けるためにマツリカは懸命に働いている。
湖で獲れた魚の仕分けを大人に混じり手伝ったり、街角で花を売ったりしている。
僕と会ったときは、いつもならお花を売っている時間だったんだけど、売り物の花を…あのガラの悪い犬に駄目にされて落ち込んでいたんだってさ。
でもそのすぐ後に、子狼の姿をした僕に会えたってマツリカは嬉しそうに話してくれたんだ。
とても良い子なんだなあって、僕は目を潤ませて真剣に話を聞いていたよ。
真剣にマツリカの話を聞いていたら、ふと気がつくといつの間にか、夕ご飯の時間になっていた。
僕のお皿には、少しのお米を薄いミルクで煮たリゾットのようなものの上に、小さいお魚が一匹のっている。
マツリカは、お腹がいっぱいだから僕にあげるって言ってた。
すごく薄味だけど味とは関係なくって、なんか…とても優しくって温かい味がした。なんていうか、心がぽかぽかしてとても美味しいんだ。
なんかティアを思い出すような、暖かっくって切ない気分になる。今日は、マツリカの家に泊まるけど明日は絶対にティアに会えるからね――
小さな窓から見える夜空に向かい、フィヌイはティアのことを想ったのだ。