フィヌイの散歩(6)
マツリカは家に向かって帰ろうとしていた途中、大きな通りから家に向かう狭い路地に入った直後に、あのガラの悪い犬が現われたのだ。
「どうしよう。あの犬、いつも私を見ると追いかけてくる…。せめて、小っちゃいフィヌイ様だけでも守らなくっちゃ」
――この子は…神様を頼ろうって思わないんだね。
フィヌイはマツリカの顔を見上げてみると、マツリカはとても怯え震えていたのだ。
どうやら、いつもこのガラの悪いこげ茶色の犬に追いかけられ、怖い思いをしているようだ。
――ふ~ん。それじゃ、少しお仕置きが必要みたいだね。
フィヌイはそう考えると、神の気配を少しだけ隠すのを止めたのだ。もちろんほんの少しだけだが…。
そうしないと動物は勘が鋭いからびっくりしてパニックを起こしてしまうかもしれないし、ティア達にも迷惑をかけてしまう。
だからつまりは少しだけ、ただの子犬のフリをするのを止めたのだ。
それも、目の前のガラの悪い犬に対してだけである。
「――!?」
するとガラの悪い大型犬は、驚いたような顔をすると挙動不審になる。
――おい! そこのお前!! なんでマツリカをいつも追い掛けまわしているんだ。
――そ、それは…。
――ふ~ん。弱い奴が逃げていくのが面白いから追いかけまわしているのか。そうすると僕がお前を追いかけまわしたらそれは面白いってことになるよね。それじゃ、試してみようか?
――……も、申し訳ありません。二度とこんなことはしません! ど、どうかお許しください!!
「キャン、キャンキャン!」
震え悲鳴を上げると、ガラの悪い犬はフィヌイたちに背を向け一目散に逃げだしたのだ。
やれやれとフィヌイは心の中でため息をつく。
心の中を読んでみると、どうやらあのガラの悪い犬も昔…人間に散々虐められたようだ。
その時の心の傷が癒えずに、自分より弱い奴をみるとその時の仕返しや復讐とばかりに、むかし虐めた人間と同じようなことをするようになったらしい。本当に悲しいことだけどね。
けど、ティアのように理不尽な目に散々遭っても、他の人に同じことをしちゃいけない。弱い立場の人を助けてあげたいって思う人間もいるんだよ。
おそらくマツリカだってそう。子犬のフリをしている僕を守ろうとしたもの。僕はそういう人たちが大好きだし、力になってあげたいって思うから。
フィヌイのもふもふの白い尻尾はマツリカの腕の中で大きく揺れていた。
マツリカはいつも追いかけてくる大きな犬が一目散に逃げていく姿を見ながら、ぽかーんとしていた。
「……。いつも追いかけてくるのに、今日は逃げて行っちゃった。もしかして…? あなたの――フィヌイ様のお陰なの?」
「キャウ!」
フィヌイは白い子犬のフリをしながら、マツリカの顔を見て一声鳴いたのだ。