フィヌイの散歩 (2)
フィヌイから直接、フェアル湖の由来を聞いたとき――
ティアはフィヌイ様ってやっぱりすごいんだなと、目を輝かせ尊敬の眼差しを送っていたが…
あのラースにいたっては胡散臭そうな顔をしていたのだ。
その顔には、嘘だな――。お前が魚を食いたいから地面に穴でも掘って造っただけじゃねえの? と書いてあったのだ。
――きゃぅぅぅ!
相変わらずなんて失礼な奴なんだ!! 後で天罰を与えておかねばと、フィヌイは目を逆三角形に吊り上げ、忘れないように心の中のメモ帳に記入しておく。
「…」
なんか、ふと気づくとちょっと前の出来事を思い出しちゃったね。
でもまあ、こいつに関しては今はどうでもいいや…。
今回の目的は美味しい海のお魚を食べること! だからティアにお願いして、この街に立ち寄ってもらったんだよね。
いろいろ先のことを考えればきりもないし、不安なこともあるけれど、やっぱりせっかくの旅だから楽しまなくっちゃね。大変な時だからこそ、息抜きは大切だよ。
こうやってフィヌイは、子狼の姿でひなたぼっこをしながら、うつらうつらと微睡んでいた。だが、ふと目を開けてみると、窓の外には青い空が広がっていた。
ここ最近、寒い日が続いたけど、今日はぽかぽかの陽気みたい。
こんな日はお昼寝もいいけど、お散歩も捨てがたいかも。どうしようかな…そうだ!
フィヌイはむくっと起き上がると、寝台から跳び下りて前足と後ろ足を入念に伸ばし、体をぶるっと震わせると眠気も覚めたところで、文机の上めがけジャンプ――! 文机の上に跳びのったのだ。
さすがに、このまま散歩に出かけたらティアが心配するし、一言書き残してから出かけようとフィヌイは考えたのだ。
文机の上には、ちょうど羽ペンとインク壺もある。
そして、便箋が置かれているからティアが手紙でも書こうと思っていたのかもしれない。
相手は…救護院にいるアイネかな? 心配しているだろうから昨日、手紙でも書こうかなって言っていたしね。
紙はまだあるはずだし、ちょっと使わせてもらおうかな。
まずは、ペンの先に適度にインクを染みこませて――と思いフィヌイは肉球でペンを握ろうとしたとき、肝心なことに気づいたのだ。
――そうだった! 狼の姿だから肉球で羽ペンは握れなかったんだ。どうしよう…人の姿になって書いてもいいけどティアが混乱しそうだし、困ったな…。そうだ、良いこと思いついた!
紙の上に、スタンプを押せばティアだったら気づいてくれるよね。
そう思い、こぼれたインクに片方の前足を浸し、紙の上にむんぎゅっと押しあてたのだ。
前足の見事な肉球スタンプが出来上がると、フィヌイは満足そうにうんうんと頷く。
思った通り渾身の出来前だ!
自分の作品に満足すると、今度はカーテンが揺れる窓枠に跳び移る。そして、食後の散歩を楽しむため三階の開いている窓から、ぴよんとツァルトの街の中へと飛び降りたのだ。