フィヌイの散歩(1)
――これはまだ、主神フィヌイがティア達と共に旅をしていた頃のお話。
ダイン鉱山からセピトの街を目指し旅をしている途中。ティア達は、フェアル湖という大きな湖があるツァルトの街に立ち寄っていた。
お昼ごはんも美味しく食べ終わり、お腹もいっぱい。
子狼の姿をしたフィヌイは口の周りをぺろんと舐めると、ご機嫌な様子で尻尾をゆっくり振り、うつらうつらと昼寝を楽しんでいた。
ツァルトの街に入るとすぐにティア達は宿屋へと向かう。そしてティアは、日当たりの良い一室を選ぶと、フィヌイの為に宿屋の三階に部屋をとったのだ。
そのティアは、小腹が空いたと言いつつ一階の食堂へ突撃――子狼の耳が前へ垂れて、こっくりこっくりと眠たそうにしているフィヌイを残し、おやつを食べにいっている。
窓から差し込む光はとても温かくって、ここ最近寒い日が続いたのでとてもありがたい。
この街に来て正解だったよね。
なにせ美味しい海のお魚が食べたい気分だったし、食べたいと思うものを食べれるときが一番幸せだもの!
フィヌイはとてもご機嫌だった。
大陸の内陸に位置するこのリューゲル王国で唯一、新鮮な海の魚が食べれるのは、フェアル湖を有するこのツァルトの街だけだ。
この湖は汽水湖の性質をもち、その中でもとても特殊な湖として知られ、別名『フィヌイの御手』とも呼ばれていた。
ちなみに汽水湖とは、淡水である湖の中に海の水が流れ込んでくる湖のことを示している。この湖は時間帯によっては、海水が多く流れ込み、その時に海の魚が採れるのだ。
この湖の由来は古く――遡ること戦乱の時代。戦いの余波で幾つもの大きなクレーターができ、そのうちのひとつに、雨が降り山々からの水が流れ込みこの湖はできあがったと伝えられている。
その時に、湖の底から地底を通じ海へとつながったとも言われているのだ。
このフェアル湖は、今も英雄として語り継がれているリューゲル国の初代国王。国王となった若者に力を貸した主神フィヌイが、戦乱の時代に戦ったときの爪痕によるものとだと伝わっている。それゆえフェアル湖は、別名フィヌイの御手とも呼ばれ、神々の巡礼地のひとつにもなっているのだ。
フィヌイはこの街に着いたとき、子狼の姿で自信満々にえっへん! と神としての自身の武勇伝を交えつつ、この湖の由来をティア達に語って聞かせたのだ。