貴婦人の憂い
森を抜け、街道を道なりに歩いていると、遠くに馬と人影らしきものが見えてきたのだ。
――さらに近づいてみると、
「あれって・・馬車ですよね」
――ほんとだ。でも辻馬車とは違うね。
子狼姿のフィヌイはティアに抱きかかえられ、同じ高さから遠くを眺めていた。近くで見る、ふさふさの白い尻尾がとても可愛いくってティアの心は癒されていたが、
・・なんだろう。馬車から人が降りて近くの芝生に集まっている。
よく見れば、馬車に繋いでいる馬とは明らかに違う馬たちも、十頭ほど近くの木に繋がれているし、
その馬に乗っていた護衛らしき人達だろう。芝生の周りを囲み警戒しているように見えるのだ。
確かに、辻馬車とは造りや大きさがまるで違う。
「どこかの貴族が乗っている馬車みたい・・」
ティアは神殿で下働きをしていた頃、王侯貴族といった身分の高い人を遠くからではあるが見たことがある。
その人たちが乗っていた馬車や護衛につく騎士たちも見ていたので、すぐにそれだと気づいたのだ。
――見てごらん。あそこに小さな子供もいる。
フィヌイに言われティアは一生懸命に目を凝らすと、
たしかに人が集まっている中心に小さな子供が仰向けで寝かされていた。傍には、この子のお母さんらしき人の姿も見えた・・。
・・さすがは狼の視力。こんな遠くまで見渡せるなんてすごい。
子供がいるなんて、言われるまでまったく気がつかなかったよ。
さらにその周りを見ると関係者らしき人が心配そうに、又はおろおろした様子で見守っていたのだ。
・・どこか怪我をしているのかな、それとも具合が悪い・・こちらも心配になってくる。
「どうしたんだろう。事故かな・・でも、そんな風には見えないし馬車の故障?」
――ねえ、僕たちも近くに行ってみよう。
「そうですね」
なにか手伝えることがあるかも知れない。フィヌイに促されティアは子供のいる場所まで走っていったのだ。
「あの・・すみません。どうかされたんですか?」
近くにいる護衛らしき男の人に尋ねてみると、始めはただの野次馬だと思ったのか、むっとした顔をされ追い返そうとしていたが・・
ティアの修道女の服装が目に入った途端、表情を変えたのだ。
「奥様、失礼します。旅の修道女のようですが、ここを通してもよろしいでしょうか・・」
人の中心にいた子供の母親らしき綺麗な女性は顔を上げると、
「ええ、お願い・・」
女性の許可が下り、ティアは中へと通される。
近くでよく見てみると子供も、その女性も近くにいる人たちとは服装が明らかに違う。
二人とも旅装の姿だが、上等な生地で作られ仕立てのいい服を着ていたのだ。
間違いなく、身分の高い貴族だ。
――母親は貴婦人の挨拶をすると、ティアに微笑む。だが、その表情は美しい中にも憂いをおびていたのだ。




