夢と共に幸せな未来へ 前編 ~ティア編~(14)
「あの婆さんは若い頃――王都の神殿で、高位の役職についていたらしい。理由は知らねえが、どうやら当時の神官長と喧嘩をして神殿を辞めちまったようだ。王都の神殿、しかも高位の役職に就けるほどの、かなりの腕前を持ちながらも、片田舎の村に引っ込んじまったっていうんだからな」
私としては、ものすご~く神殿に嫌気がさしていたのだろうと想像がついた。私が神殿を追い出された時だってあんな感じだったし……そりゃ、嫌になるよね。
そんなティアの思いを知ってか知らずかラースの話は続き…
「まあ、俺みたいな連中にとってはその方が有難いがな。王都の神殿でないと治せない怪我や病も、訳ありだと知っていながらも、法外な金額を請求されることなく治療してくれる。俺みたいな仕事だと、下手に神殿にいけば、詮索されたり弱みを握られる可能性だってあるしな」
ラースの話を聞きながら私はお茶を一口。確かに、ラースがセレスティア殿下の密偵として働いていることは知ってはいる。そりゃあ、仕事がらあんな神殿なんていけないだろうと私は思いつつ。
「あの婆さん、治癒魔法も相当な腕前で、聖女に匹敵するという噂もあるくらいだ。俺も実際、魔法がらみの厄介な呪いを解いてもらったこともあるし、どうやら盛られた話でもなさそうだぞ。ひょっとすると、フィヌイの奴がなにかしらの加護をあの婆さんに与えているのかもしれないが…これはあくまで俺の推測だ。詳しい話は、フィヌイに聞いてみないと何とも言えないが」
「なるほど。う~ん、そうだったんだ。そんな経緯があったとは…」
当時の神官長っていったら、前神官長か、はたまたその前ぐらいなのだろうか。
人生…いろんなことがあるものだ。
たしかにフィヌイ様だったら知っていそうだけど…そのフィヌイ様は現在、いつ目覚めるともわからない深い眠りの中にいる。でも、たまに寝言をいっているようだし、ただの冬眠のようなものかもしれないが。
でもたまにだが、私の夢の中に子狼姿のフィヌイ様が出てくることがある。
本当に私の夢の中に会いに来てくれたのか、ただの願望なのか判断がつかなくってよくわからないが。
けど、その夢から覚めたときは不思議ととても幸せな気持ちになっているのだ。