黒猫ベルについて ~ティア編~(13)
目の前に座っている、この黒猫のベルに私たちの会話の内容がわかっているのかどうかは不明だが…
ベルはあいかわらず、呑気そうに欠伸をしお座りをしていた。そして今度は、前足で髭の手入れを始めていたのだ。
ティアはベルを見ながら首を傾げると、
「……。 こうやって見ると、普通の黒猫にしか見えない…」
「人の言葉は理解している。そのことに間違いはないはずだ。ノアもそうだったからな」
「あ、そういえば霊獣のノアは? 今日は連れってきていないの?」
ティアは周りをきょろきょろ見回しラースの相棒であるノアの姿を探す。だが、それらしい姿も気配もない。その行動にラースは苦笑を浮かべると、
「あいつは前来たときに、あの黒猫に美味しそうだと言われたらしい。それ以来、よほどのことがない限り怖がってここには来たがらない…」
「あははは……そうなんだ」
ノアは鳥の霊獣。よく考えてみると鳥の天敵は、狼や猫だし…ノアの性格を考えてみても、かなりの怖がりだからな。
それに一緒に旅をしていたころ、子狼の姿をしたフィヌイ様にも美味しそうとか言われて怯えていたし、今回会えなかったのは残念だけど、仕方がないか…。
まあ、でも仕事はちゃんとやっているみたいだし、特に問題はないんだよね。
「霊獣の言葉が理解できるのは、契約を交わした主だけだからな。あの黒猫の言葉が解るのはリベル婆さんだけだ。ちなみに、契約を交わした霊獣が見たり聞いたりしていることも、主は共有し認識もできる。つまりあの黒猫がなにも言わなくてもリベル婆さんには、こちらの状況を把握できるわけだ」
ティアは薬草茶をずずっと飲みながら、ラースの言葉に感心する。
「へ~え~、そうなんだね」
「だが、あの黒猫がどんな能力をもっているのか。また、どういう経緯で契約を交わしたのかについては俺は詳しくは知らない。まあ、特に聞こうとも思わないしな。…だが、おそらくは王都の神殿を出た後にでも、契約を交わしたんだろうよ」
「ん? 王都の神殿って、どういうこと?」
ティアの問いかけにラースは薬草茶を一口飲むと、落ち着いた口調で話を続けたのだ。