意外な訪問者 ~ティア編~(9)
――あれから半年の月日が経ち、
その頃には、私もここでの生活にすっかりと慣れていた。
ここでの薬師の仕事は、薬の調合と処方だけでなく村の診療所としての役割も兼ねている。
リベルさんの家兼診療所には、たくさんの患者さんが毎日のようにやってくるのだ。どうやらここの村人だけでなく、どこかから噂を聞きつけ、遠くからも人がやってくるみたい。
村の外から来る患者さんたちの話をなんとなく聞いてみると、こんな話が聞こえてくるのだ。
例えば、神殿で治療を受けるほど酷くもなく、王都までは遠く時間もかかるし、なにより法外なお布施をしなければならないので、とても王都の神殿へ行く気にはなれないと。
それに比べここには腕の良い薬師がいて、へたな医術師なんかよりよっぽど上手いし法外な金額を取られる心配もない。だから安心してここへくることができるのだというものだ。
たしかに私が神殿で下働きをしていた頃。王都の神殿だけでなく、医術師に見てもらうにも法外な金額が必要なところも多いと記憶している。
でもアイネ神官長が就任してからは、神殿もだいぶ風通しが良くなってきているはずだ。
前の神官長の頃とは違い、王侯貴族や大金持ちしか治療を受けられないということもなく、今では民が治療を受けられる体制も整えられてきている。
元は救護院の院長をやっていて、弱い立場の人や貧しい人たちの苦しみもよくわかっている人だ。アイネ神官長の人望と手腕なら今までの神殿に不信感を抱いていた人も、いつかは理解してくれるはずだ。
それだけの手腕がある人だから、私は特に心配はしていない。
気がつけば、かなり横道に反れてしまったが話を元に戻すと、今の私のここでの仕事は相変わらず雑用係みたいなものだ。それでも、最近では少しずつ仕事を任せてもらっている。
もちろん、リベルさんがいるときは助手はエーデンが行っているし、私はエーデンの下につきせっせと、手伝いに勤しんでいる。
だがリベルさんが出かけるときは、エーデンに全てを任せ、私はエーデンの助手として働く許可をもらっているのだ。
そんな生活にもだいぶ慣れてきた、ある日のこと。
この日はリベルさんは王都へと出かけ、私たちは留守番をしていた。午前はいつもくる馴染みの患者さんが多く、充実した日を過ごしていた。
そしてようやく人の流れが途切れたお昼過ぎ…突然、意外な人物が訪ねてきたのだ。
「ようエーデン。婆さんはいるか?」
どこかで聞いたことのある声が入口から聞こえたと思い私は柱の影から、そおっと覗いてみると、
なんと、そこにいたのは――!
「あれ、ラースさん久しぶり! 師匠は今出かけているけど、どうしたの?」
「ああ、ちょっと話ができればと思ったんだが…大した話でもないし次でいいか。それより、いつもの薬草を貰いに来た」
「ああ、そうだったね。ちょっと待ってて!」
「……」
なんか…二人で楽しそうに和気あいあいと話をしているみたい。
ううっ……美男美女でなんかいい雰囲気だし、お似合いだ。くっそぉぉぉぉ――!
なぜか柱をつかむ手に力を込め、私はむくれた顔でその様子を眺めていたのだ。
同時に、なぜそんな感情を抱くのか。そんな自分自身にも、戸惑っていた。
あれ? なんで私、柱の影に隠れてコソコソ様子を伺っているんだろう。久しぶりにラースに会えたんだから顔を出せばいいのに…私なんか変だ。
おかしな行動をとるそんなティアの様子を、黒猫のベルはお座りをしながら、長い尻尾を振り不思議そうに眺めていたのである。