エーデン ~ティア編~(8)
最近この国を救った聖女――つまり私のことだと思うが…??
それが絶世の美女だという噂…それが一体どんな噂なのか私は気になって仕方がなかった。しかし、これ以上この話題に触れれば、今度こそ確実に墓穴を掘りそうだし、ほんとうはすごーく気にはなるが今は聞かないことにする。
いずれそれとなく聞いてみればいいことだし、今は私が聖女だったということがバレないよう、気をつけようと思ったのだ。そして私は慎重に口を開き。
「実は私、赤ん坊の頃に神殿の前に捨てられていた孤児なんだ。それでそのまま神殿の孤児院で育ったから、フィヌイ様の存在を身近に感じていたのかもしれない」
「なるほど」
「まあその後は、孤児院をでて神殿で住込みで下働きをしていたこともあったけど……なんかごたごたに巻き込まれて、そこは結局追い出されちゃって。でも、いろんなことがあったけど今はとても幸せなんだ。結局なんとかなっているし、これもフィヌイ様の導きかなって思うんだよね」
嘘は言っていない。ただ、話していない所が結構あるだけで…ごめん、エーデン! いずれ本当のことを話すからと私は心の中で謝ったのだ。
「そっか、私だけじゃない。ティアも色々大変だったんだ…」
「ん? ……そういえばそうだね。たしかにその時はすごく大変だったけど、今はいい思い出かな。それにエーデンにも出会えたしね」
「なるほど。師匠やティアに出会えたのも運が良かったか…そういう考え方もあるね」
エーデンはふんわりと微笑んでいた。ティアは、ふとそういえば話の腰を折っていたことに気づき、
「ごめん…私が先に色々喋っちゃって、エーデンの話を聞くはずだったのに」
「ううん。大した話じゃないよ。ただ貧しい村で育って、生きていくために両親は私を人買いに売った。人買いに連れられて王都に向かっている最中にこの森の近くで盗賊たちの襲撃にあって、人買いはそこであっけなく死んで。
私ももう駄目かと思った時、師匠が盗賊たちを撃退して助けてくれたんだ。まあ、かいつまんで話すとそんなところ。そして――今の私があるんだろうね」
「そうか…エーデンも色んなことがあったんだ。ん? ちょっと待って…もしかしてリベルさん、ひとりで盗賊たちをやっつけたの?」
「そう、師匠ひとりでね」
リベルさんは小柄で高齢だし、強そうには全く見えない。ラースみたいに、なんか強そうだなって感じもないし、まあそれでも、なぜか威圧感はすごいが…。
でもそれでいて、撃退できたってことは、まさか…魔法が使えるとか?
「前に、ティアが師匠が魔女だって言ったことあながち間違っていないよって、私が言ったこと覚えている?」
「うん」
「師匠は魔法を使って盗賊たちを撃退したんだよ。その時あいつらったら、師匠のこと魔女だって言いながら腰を抜かしながらも必死で逃げていったんだ…まあその時はちょっと面白かったけど。それに師匠は、隠してはいるけど神官様みたいな治癒魔法も使えるみたいだし」
「…ねえ、エーデン。リベルさんはどんな魔法を使ったの?」
「地面を自由に操っていたようだけど…」
その言葉にティアはハッとする。フィヌイ様と同じ地属性の魔法だ。
本当にただの偶然かもしれないけど、やっぱりリベルさんは只者ではないとティアは思ったのだ。