フィヌイ様の存在 ~ティア編~(7)
エーデンの寂しそうな顔を見たとき、ティアはハッとする。
いけない…これは聞いちゃいけないことだったんだ。人には、話したくないこともあるもの。エーデンに嫌な思いをさせたいわけじゃなかったのに、どうしよう。
自分の配慮が足りなかったことに私は悔やんでいた。そして、ばんかいするべく慌てて話しかけたのだ。
「ご、ごめん。気にしないで……!」
手をパタパタ振り、表情を慌ただしく変えている様子に、エーデンは始め目を丸くしていたが、ティアの百面相に思わず吹きだしたのだ。
「ぷっ…ティアたら、大丈夫だよ。ティアが優しい子だって知っているし私は気にしていない。それに師匠以外の人にも、そろそろ話さなくっちゃいけないかなって思っていたところだし、これもいい機会かもしれないよね。ねえ、ティア。もしよければ話を聞いてくれるかな。私も自分自身に踏ん切りをつけるためにも、話しておきたいんだ」
「う、うん」
エーデンの申し出にティアはコクコクと頷く。そして彼女は少し寂しそうな表情で話を始めたのだ。
「私が師匠のところに来たのは本当に偶然で…運が良かっただけかもしれない。もしかしたら、この国の主神フィヌイ様のお導きだったのかもね。私は信心深い方じゃないけど、あの時はそう思ったんだ。一時はフィヌイ様のことを恨んだこともあったのに」
「え…」
唐突にフィヌイ様の話になり、私の心臓は跳ね上がる。やっぱり、私がフィヌイ様の加護を受けた聖女だったってことは今は秘密にしておこうと思ったのだ。
だが、ティアの動揺など気づいてないようでエーデンはさらに話を進め。
「昔は神様なんていない。もし、いたとしてもフィヌイ様はこの国の聖女にしか恩恵を与えていない。この国の人は信心深い人もいるけど、私はそう思っていた。まあ、今も神様の存在なんて半信半疑だけどね」
そういえば、たしかラースなんかも初めはフィヌイ様の存在を信じていなかった。やっぱりフィヌイ様のことを信じていない人もいるんだなと思いつつも…ティアはつい口を挟んでしまう。
「エーデン、この国の主神フィヌイ様は存在するよ。ただ、人の世界での出来事はその人自身が越えなければいけない試練でもあるから、安易に助けることはできないんだよ。それでも、心の綺麗な人には幸を落としてくれる。その幸運を活かすことができるかはその人次第なんだよ」
「…? ティアって…なんか知らないけど説得力があって、噂の聖女様みたいだ」
しみじみとエーデンは感心していたが、ティアはというと…
し、しまった!! 自分で墓穴を掘ってしまった~どうしよう! 私がその聖女だったって気づいちゃうよ~! と心の中ではパニックになっていた。
だが…ティアの内心の動揺をよそに、エーデンはサラリとした口調で、
「でも噂では、最近この国を救った聖女様って神々しいほどの絶世の美女だっていうし、さすがに違うか。やっぱり神殿に熱心に通っていたことがあるとか…」
「え? うん」
目が点になり曖昧に答えながらも、ティアの頭の中では絶世の美女ってなに…?? という疑問が浮かんでいたのだ。
そんな二人のやり取りなど関係なく、そのすぐ近くでは…
この家の黒猫ベルは、大好きな薬草の上でゴロゴロと呑気に転がり昼寝を楽しんでいたのだ。