決意の理由 ~ティア編~(6)
私は、特別な存在なんだと驕った心になってしまえば、以前のアリアさんのようになってしまう。
そうならないためにも、フィヌイ様の力を借りていたにだけにすぎない、ただの人間なのだと常に心に戒めておかなければならない。いや…まあ実際はその通りなんだけどね。
例え聖女として神殿に戻ったとしても、私では権謀術数渦巻く王侯貴族の中で生きるにはかなりの無理がある。
神殿で下働きをしていたときに特権階級の人たちの、狸と狐の化かしあいの会話などさんざん見聞きしているし、これは相当場慣れしているか、頭の回転が速くないとあの世界で生き抜くことは、はっきり言って無理だ。
それに私は隠し事が非常に下手だ。どうやらすぐ顔に出てしまう質のようだし、人には得手不得手があるもの。
これでも私は自分のことはよくわかっているつもりだ。それに私が無理をして頑張らなくても、この国は大丈夫。
アイネ神官長は孤児院にいるときから知っていて、人格的にもとても信頼できるし、それにあのラースが強く信頼を寄せているセレスティア王太子殿下もいるのだ。
国の上層部での役割はアイネ神官長。そして実際には言葉を交わしたことがないけれど、フィヌイ様の評判も悪くはないセレスティア王太子殿下に任せておくことにする。その人たちがいる限り、その辺りのことは心配はしていない。
それよりも、私は私なりのやり方で、フィヌイ様が今まで与えてくれた幸せを、今度は私がみんなに返していきたいのだ。私にとっての役割は、市井の中で生きていくこと。
そのために以前から興味もあり、治癒魔法と共に活かすことができる薬師の仕事を選んだ。そう私は薬師となると決めたのだ。
そして今日も私は、せっせとリベルさんの下で働いている。
ちなみにリベルさんと一緒にいたあの女の子は、エーデンといって私の先輩にあたる姉妹弟子だ。
見た感じ年も近そうだなと思ってはいたが、聞いてみればなんと同じ年だ。こうやって同年代の子と話ができるというのも嬉しいし楽しいものだ。
おまけにエーデンは、美人なのに鼻にもかけず、とても気さくで性格の良い子だ。
今もこうしてリべルさんが使う薬草の選別を、私はエーデンと一緒にやりながら話をしていた。もちろん、ちゃんと手も動かしているし問題はないだろう。レベルさんはちなみに今は外出中だしね。
いろいろとおしゃべりをしながら、私はふっと前から疑問に思っていたことを聞いてみたのだ。
「ねえ、エーデンはリベルさんのところでどうして働こうと思ったの?」
そのとき、彼女の顔が少し曇ったように私には見えたのだ。