森の中の道
森の中を歩いていると、空気がとても清々しく、
枯れ葉や枝を踏みしめている音だけが聞こえ、たまに綺麗な小鳥も鳴いている。
だが・・気がつけばなぜか、獣道を歩いていた。
記憶では 、野原で休憩した後に街道沿いにある近くの村を目指していたはずなのに、今歩いているのはどう見ても深い森の中・・
今は、大きな狼の姿になったフィヌイ様が先頭を歩いてくれている。
大きさはそのままに実体化しながら進んでくれるので、枝などもバキバキ折ってくれ、服に枝がひっかかることもない。獣道も踏み固められ、地面も幾分は歩きやすくなっている。
これは、あらかじめ王都を出るときにブーツに履き替えて正解だったと思う。
王都の街中は、道が舗装されサンダルで歩いても何も問題はないが、街道にでてからは違う。たまに道がボコボコしていたり、小石が落ちていたりサンダルでは怪我の原因にもなりかねない。
森の中を歩くとなるとなおさらだ。下手をすれば、足元に落ちている枝で怪我をする可能性だってある。
「フィヌイ様・・」
――どうしたのティア、困った顔をして?
「・・。私たち、なぜ森の中を歩いているんでしょうか・・」
――やだな、ティアの願いを叶えるためだよ。
「森歩きがですか・・」
――これは必要なことなんだよ。
「よくわかりませんが・・そうなんでしょうか・・」
前を行くフィヌイはぴったと足を止め、くるっとティアに振り返ると、
――ティア・・ 僕の言うこと信用してないでしょ!
「そ、そんなことないですよ・・」
フィヌイに見つめられ思わず目を逸らし、不自然に視線も泳いでしまう。
しまった・・!また、いつもの気まぐれかって――考えたのが、ばれちゃった。
「ティア・・! 僕の目を見てごらん。これが嘘をつく目に見える」
渋々フィヌイに視線を戻せば・・・
青い瞳は夜空のようにキラキラ輝いている。真っ白の直立耳はふかふかしていて、耳の中はほのかにピンク色。槍のように鋭い歯、きりっとした顔立ち、可愛すぎる!
「は! か、可愛い・・! 後ろからも後光が射して眩しい~ これがもふもふの神様の力・・!」
周りに人がいれば、確実にドン引きするようなことを口走っていた。
頭は大丈夫かと本気で心配されていただろう。
そのフィヌイは満足そうに、うんうんと頷き、
――これで、信用してくれた。
「はい、少しでも疑ってしまいすみません」
――それじゃ、行こうか。
フィヌイが歩き出そうとしたその時、
「あ、待ってください。今のうちに少しお話があります」
ティアは慌ててフィヌイを引き止めたのだ。
「実は、お金があまりないので・・次の村で農作業などの日雇いの仕事を探そうと思います」
――大丈夫だよ。そんな必要はないって。
「でも、路銀のこともそろそろ考えないと・・」
――ティアには、聖女にしか使えない癒しの御手があるじゃないか。それでお金を稼げばいいんだよ。
「いや、それはちょっと・・それに、聖女だってばれちゃいますよ」
フィヌイは得意げな顔をすると、
――だから、旅の修道女の格好が役に立つんだよ。
放浪の旅をしながら治癒魔法や薬草を使って人々を治療して、幾らかの金銭や食料、雨露をしのげる宿を求める旅の修道女や神官たちだっているじゃないか。心配ないって、それで旅を続ければいいんだよ。
確かに、布教や放浪の旅を続ける神官や修道女がいるのは知っていた。彼らは、治療を行い僅かばかりのお布施を受け取り、修業の旅を続ける。
修道女の中にも治癒魔法を扱える者もいる。かろうじて目立つことはないだろうが・・大丈夫だろうかと考えながら黙々と歩き続けていると、
ふいに森の木々がなくなったかと思うと急に視界が開け、気がつけば街道へと出ていたのだ。
フィヌイはぶるっと震えると、またいつもの白い子狼の姿へと変化する。
――ほら、着いた。やっぱり森の中を歩くのっておもしろいよね。
そう言いながら、ご機嫌に尻尾を振っていたのだ。