薬師の魔女 ~ティア編~(4)
家の中からでてきたのは、フードを被った…それこそ昔話にでてくるような……
「ぎゃあああぁあああああ!! 魔女だ――!」
ティアはおもわず絶叫を上げていた。おまけに心底ビックリしたことで腰まで抜かし、地面に尻もちまでついていたのだ。
昔話みたいな展開なら私の人生ここで終わりかもしれない。
でも、死にたくないし攻撃魔法でも放って必死の抵抗をしなければいけないのか……そんなことを頭の中であたふたと考えていると、
「にゃ?」
長い尻尾を揺らし不思議そうな顔をしながら、さっきの黒猫が家の中からでてきたのだ。
そして――すぐ後ろからは、ティアと同じぐらいの年ごろの女の子の姿も見える。
はっとするような美人、しかも可愛い子。けど愛嬌があり、どことなく親しみやすい雰囲気も感じる。
「あれ? 師匠…その方はお客様? それとも今日、新しく入る予定の薬師見習いの子かしら?」
「どうやら、新しく来た子のようだね。まったく失礼な小娘だよ。人の顔を見たとたん悲鳴を上げるんだからね」
のんびりとした口調の女の子に対し、おばあさんは冷たい視線をティアに向けつつ、心底呆れたように答えたのだ。
「は!」
ここにきてティアはようやく我に返ると、現実を直視し顔を赤くする。
それこそ、穴があったら入りたいほどの恥ずかしい出来事なのは言うまでもない……。
この国の主神フィヌイ様の加護を受けた元聖女でありながら、村のお婆さんに向かって魔女だと言いながら悲鳴を上げてしまったのだ。
また新たな黒歴史がここに誕生したのだ。ティアは人生終わったな…と早くも意気消沈してしまっていた。
しかし、話もしないのもなんか変だし…とりあえずこの場の空気を変えようとティアは口を開くことにする。
「す、すみません。えっと…こちらはひょっとして、薬師であるリベルさんのお宅でしょうか?」
「ああ、そうだよ。私がリベルだ。お前、知らないでこの家に近づいたのかい?」
「その…そちらの猫ちゃんのあとを追いかけてきたら、たまたまこの家の前に来てしまって……」
その瞬間、リベルさんと先ほどの女の子は顔を見合わせていた。おそらくは、そうとう飽きれていたに違いない…。
「まあいい…。とりあえず中に入りな。そんなところに尻もちをついたまま、ボーとしているつもりかい」
「は、はい」
リベルに促されてティアは腰を上げると家の中へと入ることにする。
どうやら、この人はかなり気難しい性格のようで。それで私の第一印象があれなら…相当悪いと予想される。
きて早々、トホホな気分でティアは家の中へとトボトボと入っていったのだ。
だが、ティアの後ろから入ってきた先ほどの女の子は明るく笑いながら、ぽんぽんとティアの肩を軽くたたくと
「まあまあ、気にしない気にしない。師匠が魔女だっていうのは、結構当たっているよ」
ティアだけに聞こえるようにこっそり話すと、女の子は師匠であるリベルの後を追っていく。
私はその言葉の意味がよくわからず、不思議そうに首を傾げると女の子の後ろ姿をただ見送っていたのだ。