黒猫もふもふ ~ティア編~(3)
――あれはたしか、フィヌイ様とまだ旅をしていたときのこと。
街中で偶然、真っ黒でもふもふした猫を見つけ私は思わず、なでなでしたことがあった。
そのときのフィヌイ様は子狼の姿をしていたけど、頬を小さく膨らませてその様子をじーとただ見つめていた。
ちょっと様子がおかしかったけど、そのまま猫の飼い主さんの許可をえて、私は黒猫ちゃんをしばらくもふらせてもらっていた。
その後は何事もなくフィヌイ様と街の中を歩いていたが…
宿に戻ったとたんフィヌイ様ったら、しょんぼりしながら部屋の片隅に移動して、私に背を向け丸くなっていた。
よく見ると耳も尻尾も力なくだらん垂れ、なにやらブツブツと呟きながらすねていたのだ。
僕の方が可愛いのにひどいよとか…ティアなんか知らないとか…いいんだ、いいんだ僕なんてとか完全にいじけていたのだ。
私は慌てて、そんなことはない! 先の猫ちゃんはたしかに可愛かったけど、フィヌイ様のほうがすごく可愛いいと力説しながら必死になだめ、美味しい物もたくさん食べてもらい、何とか機嫌を直してもらったのだ。
そう、今となってはいい思い出だ。もちろん、今でもフィヌイ様が世界で一番可愛いと私は思っている。これだけは譲れない!
念のために言っておくが、もふもふの可愛いワンちゃんとしてではなく、この国の主神だってことはもちろんわかってはいる。
まあ、それはそれとして。今は猫ちゃんがさわらせてくれるので、私はお言葉に甘えてさわっているだけなのだ。これは、モフモフ好きの習性なのでしかたがない。
けどしばらくすると、黒猫ちゃんは身をひるがえし村の裏手にある雑木林へと歩きだしていた。
私は諦めきれずに、黒猫ちゃんの後を追う。好奇心からちょっと猫ちゃんの足取りを追跡してみたくなったのだ。
しばらく猫ちゃんのあとをついていくと、いつの間にか木々の間を抜け裏手から村へと入っていた。
正面からではなく、裏側から村の中に入ってしまったわけだがまあ、いいだろう。
引き続き猫ちゃんの後を追いかけていると、やがてとある一軒の民家の中に入っていくところで、
そこにきて、私はあらためて周りを見回したのだ。
そう村の中心部から少し外れたところに、ポツンとその家は立っていた。
私は、なんとなく猫ちゃんを追いかけ家の前に来たところで、なぜか突然玄関のドアが勢いよく開いたのだ。
「――!!」
突然のことに私は固まってしまい、そして家の中からでてきた人物の顔を見て、思わず私は悲鳴を上げてしまったのだ。