薬師のいる村 ~ティア編~(2)
ラースはこの国の王太子セレスティア殿下の密偵をして働いているにもかかわらず、私のことを気遣ってくれている。……なぜかはわからないが、そのことが私は素直に嬉しいのだ。
でも同時に、本来なら王太子を最優先に考える仕事なのに……あいつの立場を考えると、非常に心配だし複雑でもある。
一度ラースにその話をしたことがあるが、俺は悔いのないようにやりたいことをやっているだけだ。お前が気にする必要などないと、笑い飛ばされてしまった。
そのこともあってか、結果的に――アイネ神官長やラースの力添えが大きく働いたのだと私は思っている。
それとも政治的思惑が関係したのか、それはわからないが――王太子セレスティア殿下の協力のもと、私は体力が完全に回復してから、秘密裏に王都をでたのだ。
表向きには、邪神の脅威からこの国を守り地上での役目を終えた聖女は、主神フィヌイ様の加護のもと、天に召され天上からこの国を見守っているとされている。つまりは死んだということになっているのだ。
実際の私はというと、アイネ神官長がむかしお世話になった、とある『薬師』の下に弟子入りするため、ある村を目指していた。
途中までは馬車で送ってもらい、そこからは徒歩で薬師のいる村を目指す。田園風景が広がる小道を進んでいくと目的の村はやがて見えてきた。
この村なんだと、あらためて気持ちを引き締めていたその時――
モフっと温かいものが私の脚にふれたのだ。
「ニャ~」
「……!」
どこからともなく、もふもふの綺麗な毛並みの黒い動物が私の足元にすり寄ってきたのだ。
「可愛い~黒猫ちゃんだ!」
私は思わず頬を緩めると、なでなでしていた。もふもふ好きの習性がついでてしまったのだ。