新しい世界への旅立ち ~ティア編~(1)
こちらの番外編は、エピローグ~『王都にて』と『揺りかごの歌』の間の話となっております。
かなりのネタバレが含まれますので、読まれる際にはお気をつけください。
今まで、この国の主神フィヌイ様との旅で経験し考えていたこと。
それは立場が弱い人たちが、少しでも希望をもって生きていけるようしたい。
――そう考えた私、ティア・エッセンは『薬師』になる道を選んだ。
もちろん、薬師として自分で自立して生活していくのも可能だしね。
この国の主神フィヌイ様の加護をえて聖女となり、対象者に直接触れることで傷や病を治す『癒しの御手』。広範囲にわたり傷や病を癒し、瘴気すらも浄化する『治癒の奇跡』を私は使えるようになっていた。
だが、フィヌイ様が眠りについてから状況は変わり『治癒の奇跡』は完全に使えなくなっていたのだ。
どうやら、この力だけはフィヌイ様が傍にいなければ使えないらしい。
他にも変化があるかもしれないと、いろいろ試してはみたが…
その結果、フィヌイ様がいない状態でも『癒しの御手』に限りなく近い治癒魔法は今まで通り使え、他にも高度な地属性魔法や普通の治癒魔法は使えると判明したのだ。
そして私の瞳の色――これは本来の榛色ではなく水色…。まあ、今まで遠くから見たときと同じ色なんだけどね。
つまり…これはこの国の主神であるフィヌイ様の加護が、まだ私にあるということ。
おそらくフィヌイ様は深い眠りついている状態なので…青い瞳のときとは違い少し加護が弱まっているのかもしれない。
それでも、とりあえずは『聖女』だということを示しているのだ。
――もちろんこのまま、王都にある神殿で聖女として生きていく選択肢もあるが、私はそれを選ばなかった。
なぜなら私の出自は、ウロボロスを創った邪神の崇める、古からの強い魔力を受け継ぐ家系であり、しかもこの国の貴族。そんでもって侯爵家とわかりかなり複雑なのだ。
正直…その事実を知ったときは、心の中ではものすごくショックだったし、そりゃかなり落ち込みもした。まあ今は、ある程度心の整理はできてはいるが…。
私の場合、現実的にも普通の聖女とは違いややこしい問題が大量発生していた。
具体的には、政治的な思惑で利用されたり、命を狙われたりと今までの聖女よりも立場が不安定で危うくなるばかりか…そのことで国を揺るがす事態だってありえる。
まあ、私もそのことには薄々だが気づいてはいたけど…
そのことを孤児院時代の恩人でもあり、今までの旅を陰ながら手助けをしてくれた、本当のお母さんのように慕っている存在でもある、アイネ先生じゃなかった…アイネ神官長に相談したのだ。
先生は、私がフィヌイ様との旅立ちのときには救護院の院長だったはずなのに、いつの間にか神官長になっていた。
今では王都の神殿、しかも最高位である神官長に女性として初めて就任したばかりで、とても忙しい日々を送っているはずなのに、わざわざ時間をとって私の話を親身になって聞いてくれたのだ。
そして心配してくれたのはアイネ神官長だけではなく、私と共にフィヌイ様と一緒に旅をした仲間でもあるラース。彼もまた、私のことを非常に心配してくれていたのである。