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王都にて

 それから3か月後――


 眠ったままのティアが…つい最近、意識が戻ったと報告があった。

 同じ王都――彼のいる王城からも近く、急いで駆けつけたい気持ちもあったが、なんとかセレスティア殿下に許可をとり、ようやく久しぶりに会えることとなった。

 だがそこには……すでに先客がいたのだ――


 「ああ、そういえばラースは初めてだよね。こちらアイネ先生じゃなかった…王都の神殿に新しく就任したアイネ神官長」


 寝台から上半身を起こしたままだがティアの顔色はよく、にこにこと笑っている。どうやらティアが気を許している相手のようだ。


 「初めまして、ラースさん。神官長のアイネ・フラウです。お噂は聞いておりますわ。ティアとフィヌイ様を守りながら旅に同行してくれたそうですね」

 「ええ、まあ…」

 「アイネ神官長は、私が孤児院にいた時、とてもお世話になった先生なんだよ。だから信頼して大丈夫!」


 なんてティアは言ってはいるが、こいつは貴族…しかも古からの強い魔力を受け継ぐ家系。そのうちの一派の出身だ。それに神殿では、大規模な改革を行っているかなりの切れ者だという話は、ラースの耳にも入っている。

 セレスティア殿下も一目置いているようだし……ティアとは違いはっきり言って、一目見た瞬間から油断はできないとラースは直感する。

 まあ、セレスティア殿下の側から見た感想と、個人的な相性からあまり近づきたくないと思っただけかもしれないが。

 だが相変わらず、そんな空気も読めてないティアは能天気に話かけてくる。


 「あ、そうそうラースもフィヌイ様のこと気になっているでしょ」

 「まあ、そうだな」

 「いまフィヌイ様、王都の神殿にいるんだって。相変わらず眠ったままだけど、私も夢を通してたまに寝言が聞こえるんだ。神託はまったく聞こえないんだけど、どうやら私、フィヌイ様の加護はそのままの状態みたい」

 「どういうことだ?」

 「瞳の色が薄くだけど青いままなの。それで、さっきアイネ神官長ともフィヌイ様や私のことで少し相談をしたんだ」


 ここからは私が話しますね。――とアイネは優雅な仕草で説明を始める。


 「この国の主神であるフィヌイ様は深い眠りにつかれましたが、常に私たちのことを見守ってくれている。そう私は結論に至りました。そして、もう『聖女』を神殿に置く時代は終わりを迎えたのだと考えています」

 「なるほどな……だが、当の本人はどうなんだ。ティア、お前はどうしたい…」

 「う~ん。魔力は強いままだし、かなり高度な治癒魔法は使えるみたいだけど…やっぱり神殿には戻るつもりもないかな。アイネ神官長もいるし、神殿の改革は進んで問題なさそうだから、それなら私は自分にできることをしたい。もっとしっかりと勉強して、貧しい人の力になれるように『薬師』になろうと思っているんだ」

 「そっか…お前がそう望むなら、俺も応援する」

 「うん」


 「そういえばアリアからお前宛てに、言伝を預かっているぞ」

 「アリアさんから…?」

 「もう会うこともないが、そのしぶとさと凄まじい根性は認めるだとさ…」

 「ははは…あの人らしいかな」


 苦笑しながらティアは明るく笑っていた。そこにはもう以前のようなわだかまりは見られなかった。


 そうアリアは軍に拘束された後――騙されていたことも考慮され、辺境の女子修道院送りが決まったのだ。

 だがあいつは、もっと厳しく清貧を尊ぶ辺境の女子修道院を希望し、一生修道女として生きていく道を自ら選んだ。

 そして…今はこの国の人々やフィヌイのことを想い祈りを捧げているそうだ。


 お互いに重なっていた道は別れていくが、自分の進む道を歩んでいくのだとラースは思ったのだ。

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