また逢う、その日まで ~後編~
――実は、ティアにお別れを言いにきたんだ。
「……」
私の目を見ながら、大きな狼の姿のフィヌイ様は話を続ける。
――僕は、結界を張り直したときに神力を使いすぎてしまった。だから回復するためには、しばらく眠りにつかなければいけない。もう、ティアの傍にはいられなくなってしまうけど、最後にどうしてもお別れが言いたくって。
やっぱり、そんな気がしていた。わかっていたこととはいえ、ティアの心に悲しみが広がる。
「どれくらい、眠らなければいけないんですか…」
――わからない。早ければ数年で目覚めるけど、もしかしたらティアが生きている間に目覚めないかもしれない。
「……」
わがままを言ってフィヌイ様を困らせてはいけない。
笑ってさよならを言おうと、そう思っているのに目にじんわり涙が溜まり、うつむいてしまう。するとフィヌイ様は独り言のように、
――邪神になってしまったアヌイ。僕は双子の半身であるアヌイに働きかけたけど、その悲しみはいまだに癒えてはいない。だから僕は、アヌイの魂に寄り添って少しでも癒してあげたいんだ。
「フィヌイ様、封印されている邪神というのはひょっとして…」
――そう僕の双子の片割れである神。アヌイは僕なんかよりとても綺麗な心を持った神様だった。とても人々を大切に思い。けど…あることがきっかけで人を嫌いになり邪神となってしまった。そして人を滅ぼそうとした。僕たち神々はアヌイを封印し、僕はこの地に残ることにした。いつの日にかアヌイの魂が癒されるその日まで――
今回はティアのお陰で、弱まっていた結界を修復し、アヌイの暴走を止め最悪の事態は避けらることができた。ティア、本当にありがとう。
「フィヌイ様やラース、たくさんの人たちが助けてくれたからできたことです。それに私、アヌイ様のこと嫌いじゃないですよ。私はどうやら、アヌイ様を崇める魔力の強い一族の出身のようですしね」
そう、フィヌイ様と同じ双子の神様――それならきっとアヌイ様も、もふもふに違いない!
ティアの頭の中では、またしてもズレた想像が展開していた。
白い子狼の姿になったフィヌイ様と、きっと黒い子狼の姿だろうアヌイ様がじゃれあったり追いかけっこをしたりしている光景が浮かんでいたのだ。
これは、最高のもふもふ天国では――!!
「いつの日にかアヌイ様と分かりあえる日が来ますよ。絶対に!」
――…ティア、もしかして頭の中でおかしな想像してない?
「そ、そんなことありません。もふもふ天国!! とか考えてませんよ」
フィヌイは一瞬びっくりした顔をしたが、すぐに表情を和らげ。
――ふふふっ、やっぱりティアを選んでよかった。そんな面白いこと言うのはティアだけだよ。アヌイのことそう言ってくれてありがとう。よかった、最後に話せて……
そういうとフィヌイ様の姿は、朝霧の中へと消えてしまったのだ。
もちろん寂しい気持ちはあったけど、私は前を向いて歩いていこうと思う。
こんどフィヌイ様に会ったとき、自信をもって誇れる自分でいられるように、私は幸せな人生を歩んでいるといえるように
そして、自分自身にも精一杯生きたのだと誇れるようにと――