また逢う、その日まで ~前編~
ざわりっ――
心地よい風が金色の麦の穂を揺らしている。
ティアはなぜか、金色のきれいな麦畑の中に立っていた。空は、夜明けの光が差し込み朝霧がかかっていた。
ああ、これは夢なんだとすぐにわかる――。だって、こんなきれいな風景見たことがないもの。
ぼんやりとこの風景を静かに眺めていると、
麦の穂を、がさがさ揺らしながら小さな動物が近づいてくる気配がした。でも、誰かはわかっている。
やがて目の前に来ると、大きくぴょーんと跳ねて私の腕の中に勢いよく跳び込んできたのだ。
それはもちろん、いつもの子狼の姿をしたフィヌイ様だ。
いまは銀色の毛が朝の光を受けキラキラと輝いて見える。おまけにふさふさの耳もぴんと立ち、相変わらずの可愛いいもふもふもだ。
ティアはフィヌイを優しく抱きとめると、
「フィヌイ様、これってやっぱり夢なんですよね」
――うん、そうだよ!
「あの…聞きたいことがあるんですが……聞いてもいいでしょうか?」
――ティアの、お母さんのことだね。
「はい。あの、フィヌイ様は私のお母さんのこと知っているんですよね? 私…フィヌイ様と旅をしていた時、夢を見たんです。私が赤ちゃんだったころの不思議な夢を……」
――う~ん、それってダイン鉱山で見た夢のことをいっているのかな。
「はい」
――うん、あれは赤ちゃんだった頃のティアの記憶だよ。きっと僕の神力がティアと共鳴して過去の夢を見せたんだね。初めて会ったとき赤ちゃんのティアも、もふもふしたイヌ科の動物が好きだったんだ。今の僕のこの姿は、そのころのティアの心を写しているのかもしれない。あのね、ティアのお母さんは赤ちゃんのティアを守るため僕にお願いをしたんだよ。我が子の幸せを祈ってティアの大きな魔力を封印してほしいって……僕はその願いを叶えたんだ。
「そして、私を聖女に選んだ時――魔力を少しずつ戻すことにしたんですね」
――そう。いきなり返したら魔力の暴走を起こしてしまうから……僕が見守り、少しずつ少しずつ返していったんだよ。僕がティアの傍にいるためには、加護を授けるのが最善の方法だと思ったから…ティアには迷惑だったかな……。
「いいえ。嬉しい…。フィヌイ様に出会えて、こうして話までできるなんて夢のようだもの。でも、お母さんの願いはどうして叶えてくれたんですか?」
――僕は、懸命に生きようとする魂の輝きが好きなんだ。だから、叶えたいと思った。そして、ティアのお母さんにも幸運をひとつ渡したんだよ」
ティアは驚いたように目を開けると、
「それって…」
――そう、僕の幸運を活かすことができればティアのお母さんはどこかで生きている。
「ありがとう。フィヌイ様……!」
ティアの喜んだ笑顔を見てフィヌイは嬉しそうにふさふさの尻尾を振っていたが、ふいになにかに気づくと悲しそうに耳を伏せる。
――ああ、もうお別れの時間だ。
いつの間にかフィヌイ様は私の正面に立つと、大きな狼の姿に変わり言葉を続けたのだ。