ティアの真実、そして決断へ(11)
「あなたは本当にそれでいいの? この世界すべてがなくなっちゃうんだよ」
「はい。それが私の、ウロボロスを創った一族の悲願ですから」
とどかない…この人の心はどこか遠くにある。霧がかかっているようでまったく見えないのだ。
一族の悲願――その言葉に、いや『呪い』とでもいうべきだろうか。心は完全に染まっている。それとも遠い昔に、心を切り捨ててしまったのかもしれない。
もしかしたら、お母さんも昔この人を説得しようとしたのではないか? そんな想いが心によぎったのだ。
そして……今、私がこの人に言えることは、
「あなたの言葉に嘘が無いのはわかったよ。人間は誰だって過ちを犯すし、醜い心だって持っている。でも、そんな世界でも……少しずつでも良くしようと、自分を見直そうと前へと進もうとしている人たちもいる。私はそれを知っている。フィヌイ様だってその可能性を信じているから…だから、いたずらに人に干渉しようとはしない。すぐに天罰を下せば、邪神と同じになってしまうってフィヌイ様はそう考えたんじゃないかな」
クロノスは諦めたように、首を振り大きくため息をつくと、
「あなたとの話はどうやら時間の無駄でしたね。残念ですよ、本当に……」
「私は、そんな世界でも生きていきたい! 最後まで悔いを残さないためにも」
そしてティアは、意を決するとクロノスへと跳びかかったのだ――
狙うはフィヌイが閉じ込められている繭――それを持つ左手だ。
クロノスは嘲りながら、ティアに向けいくつもの闇の刃を放ったが……ティアに到達するより速くフィヌイの加護とは別のものによって阻まれ消滅する。
「ちっ……!」
仕方なく直接、ティアの首を絞めようと右手を伸ばしたその時。
シュツッ――
死角になっていた右下から突然、死んだと思い込んでいたラースが剣を一閃させたのだ。
予想外の攻撃に焦り、剣の軌道をなんとか避けたが、その拍子にバランスを崩した瞬間――ティアはこの時を逃さずクロノスの左腕に思いっきりかみついたのだ。
ティアの攻撃に驚きその勢いでフィヌイが閉じ込められている繭は左手を離れ、ティアはそれを両手で大切そうに受け止めると着地する。
忌々しげにティアを睨みつけ彼女を始末しようと手を伸ばしたが突然、彼女との間に地上からいくつもの石の槍が天を衝き前方を塞ぐように現れる。
その僅かな間にも、ラースはすぐに体制を立て直すと返す刃でクロノス脇腹めがけ切りつけたのだ。
クロノスはそれを完全に避けることはできず、それでも後ろへと跳び威力をなくし、離れた祭壇の柱の上へとなんとか着地する。
そしてティアは着地すると同時に、ありったけの魔力を繭へと注ぎこむ。
すると無数のヒビが入り、卵の殻が割れるように繭は砕け、優しい光が中からあふれだしたのだ。